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三井物産労働組合

2026年6月29日

労働組合がつくる「キャリア迷子」を生まない職場――データに基づく対話と組合発キャリア支援による学びの土壌づくり

三井物産労働組合

事業内容:総合商社/労働組合

業種
総合商社/労働組合
地域
東京都
従業員数
3,000~4,000人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    直面していた課題

    • 過去、入社10年前後での離職や「キャリア迷子」が増え、社内外のキャリアの広がりを実感しにくかった
    • 人事制度や職場への不満が、個人要因か組織課題か判別しづらく、建設的な対話につながっていなかった
    • 社内公募の異動制度などが十分に活用されず、社内でのキャリア選択肢が十分に検討されないまま、社外に人材流失しかねない懸念があった
  2. ポイント2

    取組と成果

    • ボトムアップアンケートとユニオンミーティングで職場の声を可視化し、継続的に職場改善
    • 組合内キャリアコンサルタントが社員の悩みの言語化と主体的なキャリア形成を支援
    • 労使共創の議論を通じて社内公募や職種区分統合などの制度改革を後押しし、離職抑制とキャリアの選択肢拡大に寄与
取り組みの成果
労働組合がつくる「キャリア迷子」を生まない職場――データに基づく対話と組合発キャリア支援による学びの土壌づくり

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

総合商社として多様な事業をグローバルに展開する三井物産。その企業内労働組合である三井物産労働組合(みついピープルユニオン。以下「MPU:Mitsui People Union」という。)は、「労使共創」を掲げ、データに基づくボトムアップアンケートや職場対話、国家資格キャリアコンサルタントによる相談などを通じて、組合員一人一人のキャリア自立と職場の学びを支える取組を進めてきました。MPUならではの“組合発”の人材開発・キャリア支援の実践と、その成果をご紹介します。

組合リブランディングから始まった「学び」への本格的な取組

中央執行委員長の田畑さん
「社員の悩みにいかに寄り添えるか、社員が活躍するために何ができるかを大切にしたい」
中央執行委員長の田畑さん
「社員の悩みにいかに寄り添えるか、社員が活躍するために何ができるかを大切にしたい」

三井物産の企業内労働組合であるMPUは、約10年前に任意加入のオープンショップ制からユニオンショップ制へ移行しました。それを契機に2019年からリブランディングプロジェクトを開始し、「組合カラーをオレンジに」「名称も“組合”から“MPU”へ」といった象徴的な変更とともに、組合の存在意義そのものを問い直しました。

MPUが掲げるミッションは「中長期的な会社の発展を通じ、組合員の利益最大化に資する」こと。経営と対立するのではなく「労使共創」を掲げ、課題の“対立”ではなく“共有”から始めるスタンスを明確にしています。今期スローガン「共に、歩む。」には、会社と組合、そして一人一人の組合員が同じ方向を向いて進んでいくというメッセージが込められています。

データドリブンな「ボトムアップアンケート」と対話の設計

MPU の人材開発・職場改善の中核にあるのが、「ボトムアップアンケート」とそれに続く職場対話の仕組みです。

1.JD-Rモデルに基づくアンケート設計

中央執行副委員長の猿渡さん
アンケートを支部のメンバーが話し合いやすい形になるよう考え、改善を続けている
中央執行副委員長の猿渡さん
アンケートを支部のメンバーが話し合いやすい形になるよう考え、改善を続けている

従業員へのアンケートは、エンゲージメントやストレス要因を分析する「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」をベースに設計。仕事・部署・上司という3つのレベルについて、「仕事」「人材育成」「人事評価」「キャリア」「働きがい」「ワークライフバランス」などの項目を定点的に測定します。属性は個人が特定されない粒度で取得し、部署・職種ごとの差異を把握できるようにしています。

回答率は例年90%前後(直近でも約88%)と非常に高く、自由記述欄も活用されているため、「自分のモヤモヤは個人の問題か、組織課題か」が見える化される“職場の健康診断”として機能しています。

2.ユニオンミーティングと本部長・社長対談

組合の支部員を務める、鉄鋼製品本部 企画業務室 兼 金属資源本部 企画業務室 マネージャーの濱崎さん
「社員が自分の部署を好きになれるようにしたい」との思いから、職場の小規模ミーティングで丁寧な対話を重ねる
組合の支部員を務める、鉄鋼製品本部 企画業務室 兼 金属資源本部 企画業務室 マネージャーの濱崎さん
「社員が自分の部署を好きになれるようにしたい」との思いから、職場の小規模ミーティングで丁寧な対話を重ねる

アンケートの集計結果は、労働組合の各支部と、各事業本部のトップである本部長による「本部長対談」につなげられます。労働組合支部の担当者は、全支部合計で200回を超える小規模の「ユニオンミーティング」(職場対話)を開催。一部の部署ではアンケート結果を基に本部長と事前に協議し、「どの点を重点的にユニオンミーティングで聞くべきか」をすり合わせます。等級別や部署別に10回前後に分けて実施する例もあり、職場に対する社員のリアルな本音を丁寧にすくい上げています。

そこから抽出された論点は、支部で整理・言語化され、ボトムアップの声として、本部長との対談、さらには社長との対談に届けられます。制度で解決すべき課題か、運用や風土で改善できるのかを整理し、「問題です」で終わらせず「こういう方向への改善は可能か」という提案型の対話につなげている点が特徴です。

3.MPL(三井 PEOPLE LAB)による学びの深化

アンケート結果を単に示すだけではなく、「どう読み解き、どう活用するか」を学ぶ場として2020年代に立ち上げられたのが、MPL(三井 PEOPLE LAB)です。各支部から1名ずつ、アンケートデータ分析を担うメンバーを選出し、中央執行委員とともに本部間の比較・部署ごとの特徴の分析などを行います。

例えば、「ある部署では数値全体が高止まっているが、人材育成の数値は前年より下がった」といった差が見えます。これにより、制度そのものへの不満なのか、特定部署の運用・マネジメントの問題なのかが切り分けられ、対話のポイントが明確になります。また、他の本部の好事例を共有し、「横の学び」として自部署に取り入れる動きも生まれています。データの読み解き自体が、支部長や支部員にとっての一種の「学びの場」となっており、職場をどう良くしていくかを自分事として考える人材の育成にもつながっています。

離職やキャリア不安から始まった、組合発キャリアコンサルティング

キャリアコンサルティング開始の契機となったボトムアップアンケート結果
キャリアコンサルティング開始の契機となったボトムアップアンケート結果

MPUのもう一つの柱が、組合内の国家資格キャリアコンサルタント保持者による相談サービスです。きっかけは2018年のボトムアップアンケートでした。「社内外のキャリアの広がりを感じていない」と回答した社員が約3割に上り、特に入社10年前後の離職が目立っていたことから、「辞める前に社内での新たな活躍機会を見出せるよう支援したい」という問題意識が高まりました。

当時の専従役員が自ら資格を取得し、2020年にサービスを開始。現在は組合員の中に17名のキャリアコンサルタントが在籍し、必要に応じて外部のキャリアコンサルタントとも連携しながら、1回60分の面談を1回〜複数回実施しています。相談件数は延べ約280件、満足度は9割に達しています。

MPUのキャリアコンサルティングは、「キャリアコンサルタントが正解を与える」ことではなく、「相談者が自身の悩みを言語化し、自分で解決に向き合える状態になること」をゴールとしています。バックオフィス出身の利用者が、「自分の経験が積み上がっていない不安」を語る中で、コンサルタントからの問いかけや言い換えを通じて、「実は自分はこういう強みを培ってきた」と気付くなど、自分自身の経験に新たな意味付けを行う機会になっています。

相談を担当する組合内のキャリアコンサルタント保持者は、月2回、1級キャリアコンサルティング技能士による研修(スーパービジョン)を受けています。守秘義務を徹底した上でこれまでの相談ケースを持ち寄り、「この対応で良かったか」「他にどんな関わり方があり得たか」を集団で検討することで、相談のスキルの継続的な向上を図っています。

中央執行委員の石綿さん
産休中にキャリアへの不安があった体験から、キャリアコンサルティングの存在を知らせる活動に注力しながら自らも資格取得を目指す
中央執行委員の石綿さん
産休中にキャリアへの不安があった体験から、キャリアコンサルティングの存在を知らせる活動に注力しながら自らも資格取得を目指す

会社側の人事部門にもキャリアコンサルタント資格保有者に相談できる体制があり、総合職のほか、嘱託社員も含め幅広い相談に対応しています。一方、MPUのキャリアコンサルティングは、若手〜中堅層の「評価」「配置」「異動」「辞めるかどうか迷っている」といったセンシティブな相談を、会社から距離をおいてフラットに話せる場として機能しています。

情報の守秘性を担保する観点から、人事部門のキャリアコンサルタントとの直接的なケース共有は行っていませんが、個別相談の内容は個人が特定されない形に抽象化され、人事制度や運用への提案にも活かされています。例えば「制度の理解が不十分で不安になっている声が多い」といった傾向が見えた場合、説明会の増設を組合として提案するなど、キャリア支援と制度改善が循環する仕組みになっています。

こうしたデータに基づく職場対話とキャリア支援は、制度面にも影響を与えています。社内公募型の異動制度は、MPUの働きかけもあり、その頻度や方法が見直され活性化しました。異動の活性化は離職率の低下にもつながっています。

また、総合職内でコースが分かれていた旧担当職と旧業務職といった職種区分を統合し、役割期待を見直す制度改正(2024年7月開始)など、大きな制度転換の際には、ボトムアップアンケートやキャリアコンサルタントからの声が、従業員目線での状況把握の重要なインプットになっています。

キャリア支援をより「身近なもの」に

これまで築いてきたデータドリブンな職場対話とキャリアコンサルティングの枠組みを「丁寧に磨き込んでいく」ことを今後の方針としています。

まず、ボトムアップアンケートとユニオンミーティングについては、「やって終わり」にしない運用へのこだわりを一層強めていきます。アンケート結果を基に職場ごとの小規模ミーティングや本部長との対談を行う流れは定着してきましたが、今後は四半期ごとに「こういうことが変わりました」「こういうチャレンジをしてみました」とフォローを発信し、組合員が変化を実感できるようにすることを重視していきます。「何も変わらないなら答えても意味がない」という状態を避け、継続的に高い回答率と本音の声を引き出すための工夫を続けていきます。

キャリアコンサルティングについては、「必要な人に、必要なタイミングで届く」状態を目指して、認知度向上と利用促進に力を入れていきます。現状、復職・休職者などへの個別アナウンスをきっかけにサービスを知るケースも多く、「存在自体を知らなかった」という声も少なくありません。今後は、広報の工夫や利用者による「口コミ的な広がり」も含めてアプローチを増やし、「知っていれば相談したかった」という機会損失を減らしていく方針です。

「データに基づく職場対話」と「組合発のキャリア支援」を両輪としながら、組合員が自ら学び、主体的にキャリアを選び取っていける職場づくりにこれからも取り組んでいきます。

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項

Company data企業データ

三井物産労働組合
代表取締役社長:堀 健一
所在地:東京都千代田区大手町一丁目2番1号
従業員数:5,388名(連結 約56,400名)(2025年3月現在)
創業:1947年
資本金:344,163,332,347円
事業内容:金属資源・エネルギーから食料、ICT、ウェルネスまで幅広い分野で、グローバルな商品販売やプロジェクト構築を行う総合商社。
企業HP: https://www.mitsui.com

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