

2025年3月26日
従業員の学びを会社が綿密に支援して
経営環境の激変に立ち向かう
田部井建設株式会社
事業内容:公共工事を中心とした土木、建築工事
- 業種
- 建設業
- 地域
- 埼玉県
- 従業員数
- 50~99人
- 取り組みの概要
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ポイント1
- 資格取得にかかる費用(受験費、講習の受講費、交通費など)を負担
- 受験のための情報を従業員一人ひとりに提供
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ポイント2
- 受験や学びに必要なスケジュールを考慮した配属
- 学びの時間を確保できるように現場のリーダーとも調整
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ポイント3
- 積み上げ式の資格手当を継続支給
- 特定の資格を取得すると役職に推薦
- 社内外を問わず表彰歴を評価
- 業績評価につながりにくい若手従業員の取組には情意評価で応える
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- 取り組みの成果
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技術力の向上に加え、
新たな学び・学び直しが生まれる風土も醸成
※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです
埼玉県熊谷市にある田部井建設株式会社は、1882年の創業以来、地域密着型の建設会社として快適な街づくりに取り組んできた。利根川と荒川に挟まれた土地柄により、創業期から河川の治水事業で地域に貢献し、学校や福祉施設といった公共の建物の建設も多く担っている。近年では埼玉労働局よりベストプラクティス企業に選定され、埼玉県「多様な働き方実践企業認定制度」にて、最高位となる「プラチナ」を獲得するなど、働きやすい職場づくりでも注目されている。従業員の学び・学び直しについても積極的に推進する同社の取組について、代表取締役 田部井俊一氏や常務執行役員 丸橋達雄氏、従業員の方々にお話を伺った。
時代の変化に対応するべく、学び・学び直しを推進
同社では近年、「請負金額だけではなく、技術力を評価して発注する」という傾向が強まり、技術力のない会社は淘汰される時代の変化を感じていた。企業やそこで働く人たちの技術力が受注に直結することが増え、発注者からの信頼を得て受注に結び付けられるよう従業員の技術力の向上に力を入れる必要があった。
また、いかに優れた技術提案であっても、提案する側の発信力や表現力が低いと相手に伝わらないため、顧客に対して論理的に説明するコミュニケーション力も課題となっていた。
丸橋常務:ここ10年で、建設業界においては担い手不足、技術者の高齢化により人材が不足し、自動運転や遠隔操作といった技術を導入していかないと、施工が成り立たないというのが現状です。

このように同社ではさまざまな課題に対応するため、学び・学び直しの仕組みを整備し、従業員の学び・学び直しへの多様な支援を行う必要があった。
従業員の当事者意識を高める取組とは
ポイント1、2
資格取得にかかる費用(受験費、講習の受講費、交通費など)を負担 受験のための情報を従業員一人ひとりに提供 受験や学びに必要なスケジュールを考慮した配属 学びの時間を確保できるように現場のリーダーとも調整

上記の課題に対応するため、同社では2015年に社を挙げて本格的に学び・学び直しの取組をスタートさせた。
その取組の1つに、社員研修の中で早期離職防止をテーマにした従業員の発表がきっかけとなり始まった「やりがいUPプロジェクト」がある。
新入社員を対象として業務に必要な能力の習得状況を評価し、課題や不安を解消するための支援を行う、といった取組だ。具体的には、新入社員に対し現場配属上司、教育担当、先輩社員が年4回のヒアリングを行い、仕事上の課題や日々の生活における不安などを共有した上で、上司との面談をもとに、その解決法を探っていく。
その中で社長との面談も実施されるが、プロジェクトチームの運営にかかわった総務部 福地課長代理は、労使がコミュニケーションをとりやすいように気を配ったという。
福地課長代理:社長と1対1だと話しづらい場合もあると思いますので、新入社員だけではなく、入社から数年を経た先輩社員も参加するグループトークという形にしました。
また同社の業務遂行において必須となる資格が多い中、 従業員の資格取得にかかる情報提供や費用(講習会や受験の費用、交通費など)を会社が負担するなど、綿密な支援を行っている。総務部 川島次長も、その支援に携わる一人だ。
田部井俊一社長:就業規則に資格手当の対象資格を明示しています。対象資格は随時見直しを行い、時代にあった資格を選定しています。
川島次長:受験の対象者は総務部で取りまとめ、社員一人ひとりにアナウンスをするほか、願書を取り寄せたり、受験日の前には試験会場を確認したりするなど、漏れなく丁寧に対応するようにしています。
対象となる従業員や現場の負担を軽減するため、現場への社員の配置などを考慮するとともに、学びの時間を取れるよう、現場のリーダーとの擦り合わせも行っている。
丸橋常務:資格試験を控えている社員は、試験前の残業を免除したり、勉強時間確保のため有給休暇取得を勧めたり、仕事と学びを両立しやすい環境づくりを心がけています。現場のリーダーにも、「この社員は今度こういう試験を受けるから、学ぶ時間を取ってあげてください」といった話はしています。
川島次長:最近はオンライン講座も増えてきたため、勤務時間内に受講ができるように案内することもあります。
ほかにも、施工管理に必要な資格だけではなく、総務部の業務に必要な資格も設定されているという。
川島次長:総務部は商業系の学校を卒業した社員が多いのですが、学び直しの機会ができたことで、衛生管理者や建設業経理士の資格取得にもチャレンジできます。

ポイント3
積み上げ式の資格手当を継続支給 特定の資格を取得すると役職に推薦 社内外を問わず表彰歴を評価 業績評価につながりにくい若手従業員の取組には情意評価で応える
会社としても従業員の努力にはしっかり報いる姿勢を打ち出したいと考え、従業員の資格取得については、取得すればするほど手当が増える積み上げ式で評価しているのだという。
丸橋常務:特定の資格を取得すると、工事主任への昇格が推薦されるなど、給料だけではなく処遇にも反映されるようにしています。
川島次長:資格手当については、会社説明会などで「資格取得支援として一時金を支給する建設会社は多いが、毎月継続的に手当がつく会社は珍しい」と驚かれることもあります。
さらに、従業員の能力やスキルを評価する手段として、表彰制度が活用されている。
丸橋常務:公共工事については、優秀な現場が表彰されることがあります。その表彰に対して会社から社員に報奨金を授与したり、またそれとは別に安全管理などへの取組に対して独自に表彰を行うなど、社員のやりがい向上に努めています。全社員の前で表彰されるのは名誉なことなので、それを見たほかの社員たちも「自分たちの現場でも賞をとろう!」という意欲につながっているようです。

このほか、業績評価を出しにくい立場の若手従業員には、学びの内容や姿勢を評価するといった調整も行う。
丸橋常務:業績評価と情意評価に分けて評価しています。情意評価については、社員ががんばったプロセスも反映されます。特に若い社員については、すぐには客観的な成果は出にくいため、情意評価の比重を高めるようにしています。
成果だけではなくプロセスも評価することで、若手従業員のモチベーションの向上も期待される。また、情意評価を尺度とすることで、若手従業員の教育についても、日ごろの仕事ぶりに着目するなど指導の方向性を定めやすくなったという。このように個々の従業員に適した評価や教育を行うことで、業界全体の課題となっている早期離職防止につなげたい考えだ。
学び・学び直しで次代を担う人材を遺す
以上のような取組の結果、社員の定着率の安定や、発注者からの評価の向上など、さまざまな成果があらわれているという。
川島次長:資格を取得し役職に就くと責任のある業務を任されるようになり、仕事のやりがいも高まるので、離職率が低下します。
丸橋常務:建設DXにしても、以前は外注で対応していたのが、学び・学び直しによって内製化が進んできましたので、発注元からの評価が高まっていると感じています。
これらの取組を通して、従業員同士がともに学びやすい風土も醸成された。
田部井俊一社長:私が社長に就任して5年くらい経ったときに、ある異業種の先輩から「経営者は人を遺していくことが大切」といわれました。「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする」という、私が大好きな言葉もあります。次の代にバトンタッチするときに、人を遺したいという思いもあって、社員の教育に取り組み始めました。
140年以上の歴史を持ち、経営者は6代目となった同社だが、学び・学び直しによって育まれた人材が、また新たな時代をつくり上げていくのだろう。

本事例に該当する
- 職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ
- 田部井建設株式会社
- 代表取締役:田部井俊一
所在地:埼玉県熊谷市上根102
従業員数:71名(2025年2月現在)
創業:1882年
資本金:9360万円
事業内容:公共工事を中心とした土木、建築工事
企業HP:http://tabei.co.jp/
Company case企業事例
学び・学び直しに取り組む企業の事例をご紹介いたします。
各企業が抱える課題や成功のポイントについて具体的な内容を掲載しておりますので、是非ご参照ください。
事例は順次追加予定です。