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側島製罐株式会社

2024年11月01日

従業員自らが学ぶ理由を見つけ
自律的な成長を描けるように

側島製罐株式会社

事業内容:ブリキ缶・スチール缶の製造・販売

業種
製造・小売業
地域
愛知県
従業員数
30~49人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 従業員の主体性に委ねつつ経営者が要所で支援
  2. ポイント2

    • プロジェクトやサークルを自主的に立ち上げやすい環境の整備
  3. ポイント3

    • 従業員の学びにかかる費用を全額会社が負担
取り組みの成果
従業員が経営視点を持ち、
よりよい会社にしていく取組を主体的に推進

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

1906年に創業した側島製罐株式会社は、食品用の缶容器をはじめ、多種多様な缶の製造を担ってきた。創業期は乾パン容器や養蚕業向けの孵化装置などで使用するブリキ缶を手がけ、戦後の高度成長期には贈答用の商品に使われる缶容器の需要増で業績を拡大。近年は企業向けの製品にとどまらず、子育ての思い出の品を保管する缶容器「Sotto(ソット)」が話題になるなど、BtoC事業での自社ブランド商品も展開している。贈答品の需要減や代替品の登場により業績が低迷した時期もあったが、経営理念として「ミッション・ビジョン・バリュー」を策定し、仕事の意義や目的などを従業員と共有することで経営改革が加速。学び・学び直しも大きく進んだという同社の取組について、代表取締役の石川貴也さんと従業員の方々にお話を伺った。

学び・学び直しは従業員の人生を豊かにするためのもの

同社の6代目となる石川さんは、他業種を経て、家業を承継するべく2020年に入社した。当時は売上も社員数も最盛期の3分の1程度になっていたという。長らくトップダウン型の経営を続けていたため、従業員は指示された通りの仕事をすることに終始。社内での挨拶をはじめコミュニケーションもあまりなく、閉鎖的な雰囲気が漂っていたそうだ。

石川さん:経費の精算業務ひとつをとっても旧態依然としていて、些細なことでトラブルが生じていました。日々の業務を通じてお客様に喜んでいただいたり、世の中をよりよくしたりするのが仕事の本質だと思うのですが、それとは全然関係ないことでの揉めごとが多かったんです。

「家業を支えてくれた人たちに恩返しをしたい」と事業承継を決断した石川貴也さん。従業員からは親しみを込めて「貴也さん」「貴也君」と呼ばれることも

そこで石川さんは入社当初からクラウド会計の導入や見積もり作成のシステム化に取り組み、さらに社内のコミュニケーションを促進するチャットツールも導入した。これまで経験したことのない分野だったが、率先垂範ということで、導入するシステムについて石川さん自らが学び、それを社内に広めるように努めたという。

石川さん:入社当時はデジタルの活用どころか、オンラインショッピングもしたことがないという社員が多くいたのですが、仕事以前に、それでは生活が不便だろうと感じました。そもそも学び・学び直しは、企業の利益のためだけではなく、まずは自分たちの人生を豊かにするためのものでもあると思います。そして人生を豊かにする知識や技術は主体的につかむものです。それを示すためにも、まず私自身が学び・学び直しを楽しみ、またみんなと楽しみ合うことが大事だと思ったんです。

経営理念を従業員が主体となって考えたことで挑戦する風土が生まれた

ポイント1
従業員の主体性に委ねつつも経営者が要所で支援

石川さんは経営改革を進めるにあたり、その根幹となる経営理念の策定に乗り出した。仕事の意義や目的が不確かなままでは、従業員がやりがいや希望を持って働けないと考えたからだ。また、単に経営理念をつくるだけではなく、働く人たちがそれを理解し、受け入れられるものにするために、従業員の中から経営理念の策定チームを募った。従業員と議論を尽くして「ミッション・ビジョン・バリュー」を策定したが、その周知・浸透を推進する活動については、経営層はあえて参加しない方法をとったという。

石川さん:最初は気になって声をかけることもありましたが、失敗することも学びになると思い直し、できるだけ口を出さないようにしました。一方で、ミッション・ビジョン・バリューを推進する担当者が行き詰まったときなどは、私が壁打ちの相手になり、いつでも相談を受けました。私の役割として、みんなをリードするのではなく、サポートすることを強く意識していたんです。

ミッション・ビジョン・バリューを策定するまでに、13回にも及ぶ会議を労使で重ねたという

ポイント2
プロジェクトやサークルを自主的に立ち上げやすい環境の整備

経営理念の策定から浸透までを従業員が自律的に行うことで、自らの力で会社を変えていけるという意識づけにつながった。製造課で主任を務める永吉則久さんも、経営理念の策定をきっかけに、仕事に対する姿勢や価値観が大きく変わったという。

永吉さん:自分たちで経営理念を考えたことで、やるべきことが明確になりました。それまでは挑戦したいことがあっても、本当にやっていいのかがわからず、みんな気持ちを抑えていたようなところがあったんです。私自身、仕事がおもしろくなくて、もう辞めようと思った時期もありました。ここ数年は、結果が出る、出ないは別として、いろいろと挑戦させてもらったことで、仕事のやりがいや楽しさを感じられるようになりました。

その挑戦のひとつに、永吉さんがリーダーを務める5S活動がある。5Sとは一般的に整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の5つのSをもとに職場環境を整えることを指すが、同社では親しみやすいように「ピカピカチャレンジ(ピカチャレ)」と称している。

同社で20年ほどのキャリアを持つ永吉さんは、会社にくるのが楽しくなったと笑顔を見せる

永吉さん:リーダーになることを打診されたときは、「自分には無理です」と答えました。しかし、貴也君(石川さん)に「自分もサポートするからがんばろう」と勇気づけられ、思い切って挑戦することにしたんです。資料をつくるためのパソコンも使えなかったので、貴也君に一からやり方を教えてもらいながら、手探りで進めていきました。

石川さん:最初こそサポートしましたが、永吉さんが周囲をうまく巻き込んで、いまでは社員のみんなが全部やってくれるようになりました。永吉さんが活動の様子を日々チャットツールで発信し、お客様から工場がきれいだと褒められたことがシェアされるなどして、社内全体でピカチャレを推進する機運が高まっていったんです。

永吉さん自身、5S活動を推進する上でチャットツールの活用法を身につけるなど多くの学びがあったというが、こういった姿勢が伝播するように、従業員自ら新しい挑戦をはじめる姿が、社内のあちらこちらで見られるようになった。

ポイント3
従業員の学びにかかる費用を全額会社が負担

従業員が主体的に取り組むことが多くなっていく中で、社内での知識や技術だけでは対応できないことも増えてきた。従業員が社外での研修や勉強会、工場見学や展示会への参加を希望するようになると、会社もその意欲に応え、参加にかかる費用をすべて負担した。ほかにも、資格取得費用や図書の購入費を全額負担するなど、従業員の自主的な学びを支援している。学び・学び直しをしたいと思ったときに、会社が承認するプロセスを極力省き、原則としてすべて受け入れ、費用も負担する方針だという。

石川さん:申請や承認というプロセスがあるせいで、せっかくのやる気がしぼんでしまい、学び・学び直しが行われないのは重大な機会損失です。そんな手続きを踏まなくても、せっかく会社にお金を出してもらったんだから、しっかり成果を出そうと思ってくれる社員がほとんどです。社員が展示会に行ったときなども、手の込んだレポートを書いてチャットツールに投稿し、自分が学んだことをほかの社員に共有してくれています。

このようにして自律的に学ぶ風土が醸成され、従業員同士が声をかけあって勉強会が開かれたり、業務改善に取り組むプロジェクトやサークルが立ち上がったりするシーンも増えたそうだ。もちろん、こういった勉強会やプロジェクトも業務時間内に行われ、費用も会社が負担する。申請や承認も必要とせず、自由闊達に行われている。

学び・学び直しの推進とともに、社内の風通しもよくなった

みんなで経営する会社へ

このような取組が実を結び、石川さんが代表に就任した当時20年連続で減少していたという売上は翌期から上昇し、また、会社の体質そのものも「ミッション・ビジョン・バリュー」の浸透を従業員だけで推進したころから変わりはじめた。石川さん自身「自分もほとんど関わっていない」というほど、従業員が主体的に行うことが増えたという。
往時の3分の1程度になっていた社員数も、経営理念に共感した専門人材が新たに入社するなど、層が厚くなりつつある。

石川さん:大赤字だったのが黒字になったり、業務効率が高まったりといった成果もありますが、私が一番自信を持っていえるのは、社員の考え方が変わったということです。新しいことをはじめるときは困難も生じますが、だからといって「いままで通りでいい」と考える人はほとんどいなくなりました。社員が会社のことを経営視点で考えられるようになったのは、とても大きな成果だと思います。

自社ブランド第一弾として発売された「Sotto(ソット)」には、「宝物を託される人になろう」という同社のビジョンが色濃く反映されている

このように改革から3年ほどで確かな手応えを感じられるようになったが、昨年10月には新たな取組として「自己申告型報酬制度」も導入した。従業員一人ひとりが会社に対しどういった貢献ができるのかを考え、それにふさわしい報酬を自ら決めるというものだ。従業員が会社に対してオーナーシップを持ち、「みんなで経営していこう」とする思いを体現するかのような制度だが、自分が思い描いた貢献をするために、どのような知識や技術が必要になるかを考えることで、自律的な学び・学び直しにも結びついている。

永吉さん:自分で報酬を決めて、自分で目標を立てるというのは、責任感も当然出てきますし、やっぱり難しいです。でも、自分で学んで成長していくことで、仕事も日々の生活も楽しくなってきました。私だけではなく、みんな本当に楽しく挑戦している感じがするので、それも大きな刺激になっています。

仕事だけではなく、人生そのものが充実してきたという人たちによって、同社がどのような発展を遂げるのか、今後も目が離せない事例となった。

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項
参考となる公的支援策

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Company date企業データ

側島製罐株式会社
代表取締役社:石川貴也
所在地:愛知県海部郡大治町西條附田90-1
従業員数:45名(2024年9月現在)
創業: 1906年
資本金: 300万円
事業内容:ブリキ缶・スチール缶の製造・販売
企業HP:https://sobajima.jp/

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