

2025年3月26日
新たな領域への学び・学び直しにも
経営者やリーダーが牽引して果敢に挑戦
風月フーズ株式会社
事業内容:レストランの運営、洋菓子・パンの製造販売、空港や高速道路への店舗展開
- 業種
- 製造・小売業
- 地域
- 福岡県
- 従業員数
- 301人~
- 取り組みの概要
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ポイント1
- 各部門のリーダークラスの人材でプロジェクトチームを結成し、学び・学び直しを牽引
-
ポイント2
- 属人的だった個々の業務をマニュアルにまとめて標準化
- 「多能工表」で各業務に必要なスキルをレベル別に整理
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ポイント3
- 情報共有の仕組みを整え社内の学び合いを促進
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- 取り組みの成果
- 経営者のみならず、従業員が自主的に業務改善できる組織に成長
※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです
1949年に福岡市天神で創業した風月フーズ株式会社。創業時は喫茶店としてスタートしたが、やがてレストラン事業に進出し、博多銘菓「雪うさぎ」に代表される菓子の製造もはじめるなど事業を拡大。高速道路のサービスエリアの運営も手掛け、現在では空港や商業施設に飲食店などを多数展開する。地元福岡でも存在感のある企業だが、同社の4代目となる福山剛一郎さんは、社長就任時から経営改革の必要性を強く感じていたという。学び・学び直しにもつながった同社の経営改革について、福山さんと管理部の田中茂任さんにお話を伺った。
DX技術によるコミュニケーション促進の取組が
学び・学び直しの発端に
同社は高速道路のサービスエリアをはじめとする交通系販路に支えられた強力なビジネスモデルを持つことから、外部の知見を求めなくても、堅実に業績を積み上げることができていたという。
福山さん:良い面も悪い面もあるのですが、風月フーズという会社は純粋培養のプロパー(生え抜き)主義で、自分たちでノウハウを成熟させながら生き残っていくことができました。しかし、時代の変化の中で、そのままでは辿り着けない学び・学び直しが求められるようになったんです。
なにごとも社内で完結していたため、新たな学び・学び直しへの視点が欠けていた中、九州の地場大手企業に就職して「外の飯を食べてきた」という福山さんが2008年に入社した。2020 年に社長に就任するまでに現場を広く経験し、学び・学び直しの必要性を痛感したそうだ。例えば組織内のコミュニケーション不足やスキルの属人化といった課題も、学び・学び直しが停滞する要因になっていたという。
福山さん:当社の社員はサービスエリアや空港、工場など多様な持ち場で働いていますが、それぞれの拠点が離れていることなどから、お互いの仕事に興味を持って情報を交換したり、業務を改善するための意見を出し合ったりすることがほとんどありませんでした。
事業が拡大していく一方で、拠点間異動や職種間の交流が少ないことで、キャリアの硬直化も起きていたという。「もっと視野を広げて、自分がかかわる商品やサービスの入口から出口までを見てほしい」と福山さんは願った。そこで、まずはちょっとした相談や情報共有等のコミュニケーションの量を増やすことが課題解消の第一歩だと考え、その解決策としてデジタルツールを導入することとなった。

経営者やリーダーの挑戦が従業員に波及
ポイント1
部門のリーダークラスの人材でプロジェクトチームを結成し、学び・学び直しを牽引
DXの推進に舵を切った同社だが、福山さんも含めITに詳しい人材がほとんどおらず、社内の基幹システムは管理部の田中さんが35年間ものあいだ一人で担っているような状態だったという。
福山さん:それまで電話やファックスでしかコミュニケーションをとっていなかった社員に、いきなりチャットツールやグループウェアで情報共有をしようといっても、うまくいくはずがないと思いました。そこで、まずはチーム単位で実験的に使ってみるところからスタートしたんです。
スモールスタートしたことが功を奏し、チャットツールやグループウェアは円滑に導入できたが、「まだ部分最適化にとどまっていた」と福山さんはいう。そこで、老朽化した基幹システムの刷新をはじめ、業務全体のDX化に着手した。経費の登録や集計を担うアプリなど、業務アプリを自社開発することもそのひとつだ。アプリ開発に際しては、総務や経理、営業といった各部門のリーダークラスの人材を集めてプロジェクトチームを結成。ITは苦手だという40〜50代の社員がアプリ開発に挑んだ。
田中さん:メンバーそれぞれが現場での課題感を持っていたため、苦手でもやらなければいけない、という思いは全員が持っていたと思います。年齢は高かったのですが、その分、実務経験が長く、現場のことをよく知っていたため、開発自体は意外とスムーズに進みました。
社内にアプリ開発のノウハウがなかったため、外部の力も借りた。
福山さん:自社で蓄積してきたノウハウだけでは、時代の流れに対応できなくなってきていました。自分たちだけでは解決できない課題にどう対処するか、正面から向き合った結果、社外にノウハウを求めることにしたんです。
アプリ開発においては、外部講師を招いて月2回の勉強会を実施し、福山さんも毎回参加した。
福山さん:アプリ開発の成功事例を見ると、やはり経営者や現場の社員が主体的に関わっているんです。事例に取り上げられた企業の役員にも話を聞きましたが、トップが手を動かしている姿を見せることが大切だとアドバイスを受けました。実際に私が動く姿を見せることで、やろうとしていることが社員に伝わったのか、現場でも開発したアプリを活用するための努力をしてくれているように感じます。

一方で、デジタルツールに抵抗感を示す従業員も少なからずいたため、その導入においては段階的に少しずつ進めることにした。
福山さん:とくに店舗や工場といった現場へのデジタルツールの導入は慎重に行いました。たとえばAとBの異なるツールを別々の拠点でテストし、うまくいったツールを成功体験として共有した上で実装すれば説得力も増します。
田中さん:みんながスマートフォンを使う時代になったとはいえ、業務アプリを扱うのに悪戦苦闘している社員が少なくないのも事実です。そういった社員については、リーダークラスもチャットツールなどを活用して後方支援を行うなど、現場をサポートする場を設けていますが、外部の力も借りて、今後も教育の機会をもっと増やしていく方針です。
ポイント2、3
属人的だった個々の業務をマニュアルにまとめて標準化、「多能工表」で各業務に必要なスキルをレベル別に整理、情報共有の仕組みを整え社内の学び合いを促進
DXの推進により、福山さんが課題だと感じていた拠点間の情報共有や意見交換の取組も本格化した。パンの製造工程を分解してマニュアル化するなど、それぞれの業務に必要な情報をまとめ、従業員がグループウェアを介して確認できるようにした。
福山さん:それまでは作業手順書やマニュアルをつくる文化がなかったため、製造の業務に限らず属人的になっていることが多かったんです。それぞれの業務をオープンにすることで、いままで気づかなかった課題が見つかるといった成果もありました。
たとえば商品の製造や販売においても、分断されがちだった各業務を俯瞰できるようになり、顧客によりよいものを提供するために部署をまたいで意見を交換するなど、従業員同士の学び合いも見られるようになったという。また、同社では従業員の多能工化を進めていたが、他部署の様子を知ることで、これまで経験したことのない業務に興味を持つ従業員もあらわれた。
福山さん:多能工化によって生産性を高めるだけではなく、硬直していた社員のキャリア形成をもっと柔軟にしたいという思いもありました。これまでパンの製造だけを担当していた人が、別の商品もつくれるようになるといった「できることが増える喜び」を感じてほしかったんです。
多能工化の推進にあたっては、各業務に必要なスキルをレベル別に整理した「多能工表」も作成した。これにより従業員は身につけるべきことが明確になり、またそれぞれの業務に対する習熟度も可視化されるため、処遇にも反映させやすくなったのだという。
福山さん:パートやアルバイトの方々への面談もはじめています。そこで「この業務ができるようになったら、時給も上がります」といった話もして、学び・学び直しの良いサイクルをつくれるようにしていきたいと考えています。

従業員が自ら業務改善を担うように
以上で紹介したような取組の結果、同社では従業員が自ら業務改善を進める姿も見られるようになった。
福山さん:棚卸しに使う業務アプリを開発したときも、現場の社員がもっとアプリをいかせるようにと、膨大な商品データの整理に取り組んでくれました。また、レストランにQRコードでの注文システムや配膳ロボットを導入したのですが、それで省力化できたぶん、お客様と触れ合う時間が増えたので、よりよいサービスにつなげてくれることを期待しています。コロナ禍の影響で、売上が前年比で半減した時期もありましたが、みんなが学んでくれたおかげで一人あたりの売上が向上し、当時より筋肉質な経営ができるようになったと感じています。

棚卸しひとつをとっても、DXによって業務の様子が可視化・共有されたことで、拠点間で「より効率的にやろう」という競争意識が芽生えたという。また製造現場でも、自主的に商品のコンテストに参加するといった意欲を示す従業員が増えたそうだ。
福山さん:よいサービスを提供したり、おいしいものをつくったりするために、なにをすればいいのだろう……と学ぶ姿勢を持ってくれる社員が増えたのは、経営者として本当に嬉しいことです。
まだまだ取組は道半ばだというが、従業員からは「学ぶことって楽しいんだ」という声もあがってきているという。「その声に応えられるように、今後も学びの環境を整えていきたいですね」と福山さんは笑顔で語った。
本事例に該当する
- 職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項
- 参考となる公的支援策

Company date企業データ
- 風月フーズ株式会社
- 代表取締役社長:福山剛一郎
所在地:福岡県福岡市南区野間1-11-8
従業員数:583名(2025年1月現在)
創業:1949年
資本金:3000万円
事業内容:レストランの運営、洋菓子・パンの製造販売、空港や高速道路への店舗展開
企業HP:https://www.fugetsu.co.jp/
Company case企業事例
学び・学び直しに取り組む企業の事例をご紹介いたします。
各企業が抱える課題や成功のポイントについて具体的な内容を掲載しておりますので、是非ご参照ください。
事例は順次追加予定です。