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株式会社Hacoa

2024年11月01日

学び・学び直しの仕組みを整え、
従業員のキャリアが大きく広がる

株式会社Hacoa

事業内容:木製デザイン雑貨の製造・販売

業種
製造・小売業
地域
福井県
従業員数
100~300人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 「作業報告書」によって各工程におけるポイントや注意点などを共有
    • 製造部門と販売部門がともに学び合う機会を設定
  2. ポイント2

    • スキルマップや人事評価シートによる役割の明確化、職務に必要な能力・スキル等の設定
  3. ポイント3

    • キャリアの幅を広げることを念頭においた配置転換や異動の実施
取り組みの成果
地域を担う人材が定着し、技能継承に加えて、
未来をひらく取組も実現

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

株式会社Hacoaは、越前漆器で知られる福井県鯖江市で1962年に創業。伝統漆器の製品は完成までに多くの工程があり、地元企業が連携して分業制をとっているが、同社はその中で「木地づくり」を半世紀以上にわたり担ってきた。伝統的な漆器の需要が年々減少する中、2001年に自社ブランド「Hacoa」を立ち上げ、顧客に直接商品を販売する事業を開始。パソコン用の木製キーボード、スマートフォン用の木製ケース、木製の名刺入れといった多種多様な木製雑貨を展開し、現在では東京、大阪、名古屋など大都市に直営店を多数構える。新事業の発展とともに、同社で取り組まれたさまざまな学び・学び直しについて、代表取締役社長の市橋人士さんや従業員の方々にお話を伺った。

事業の拡大に人材開発の制度が追いつかなかった

自社ブランドの立ち上げ以降、急成長を遂げた同社だが、「勢いで突き進んできた」ことによる課題も多々あったという。従業員によって仕事量に偏りがあり、勤務時間の差も小さくなかった。人事評価制度も整っておらず、従業員の働きぶりが上司の主観で評価されるにとどまっていたため、処遇について不満の声があったと市橋さんは振り返る。

市橋さん:いまの時代、評価制度は数値化・可視化するなど、はっきり目に見える形にしないと、なかなか納得感を得られません。また、評価の基準となるタスクや目標を自分たちで設定するなど、社員自ら評価制度を再構築することも重要だと考えました。

同社で木地職人として腕を磨いたあと、自社ブランド「Hacoa」を立ち上げた代表取締役社長の市橋人士さん

人材開発についても確固たるビジョンがなかったため、人材の配置なども場当たり的な対応になっていたという。

市橋さん:思えばこの頃は、まだ組織という形になりきれていなかったんです。コロナ禍の影響で業務が落ち着いたこともあり、ビジョンの浸透をはじめ、組織化にあたっての取組の質を高め、加速させました。

コロナ禍で先の見通しがつかない中、従業員の間では動揺が広がっていたが、同社はそれをひとつの機会と捉え、人材開発や組織化において、さまざまな仕組みの構築をより一層進めていった。

属人化から脱却し、技術や知識の共有へ

ポイント1
「作業報告書」によって各工程におけるポイントや注意点などを共有

同社の製造部門では、一人の従業員が一つの商品を一貫して担当する生産方式を導入している。

市橋さん:流れ作業や専属的な作業として分担したほうが効率はよいのですが、それでは技術や知恵、勘などが磨かれません。一人の職人が木取りから完成までの全工程を担当し、次はまた別の商品を一から担当するなど、個々の商品の製造に係るさまざまな経験をしてもらうことで、能力の向上を図っています。

ものづくりが好きで入社したという製造部の西山和紀さんは、木工については趣味程度の知識しかなかったため、当初は技術の習得に苦労したという。

西山さん:入社当時は、それぞれの社員の中で技術や知識が抱え込まれており、「背中を見て学べ」といった雰囲気もありました。その後、「作業報告書」が作成されるなど、データベースのようなものが構築され、ずいぶん学びやすくなりました。属人化しない環境が整い、会社としても技術や知識の蓄積ができてきたと思います。

商品づくりの過程を言語化する作業報告書には、各工程におけるポイントや注意点などもまとめられている。ものづくりの技能が従業員間で共有されるだけではなく、それぞれの創意工夫も記録されることで、新たなノウハウが追加されていく。また、担当する従業員の作業スピードやクオリティも記録し、次回以降の作業の改善に役立てているのだという。

市橋さん:仕事を覚えるスピードひとつをとっても、人によって大きな違いがあります。いま社員がどんな状況にあるかを見える化し、本人にも知ってもらうことが大切です。

同社のスマートフォン用の木製ケースをはじめて見たときに、その出来栄えに感動し、「ここで働きたいとすぐに電話をしました」と笑う西山和紀さん

ポイント2
スキルマップや人事評価シートによる役割の明確化、職務に必要な能力・スキル等の設定

業務に必要な技能を洗い出したスキルマップも部署ごとに作成し、従業員それぞれの習熟度や強み、弱みも可視化した。月に一度、上司との面談を通して習熟度が共有され、個々の強みや弱みをもとに学び・学び直しの方向性が擦り合わされるのだという。

市橋さん:スキルマップは、会社のビジョンをしっかり理解してもらった上で、各部署で立てた指針に沿って社員が話し合いながら作成します。

西山さん:製造部のメンバーは、入社して初めて木工に触れたという人が大半です。スキルマップを活用することで、どの学びがどのタイミングで必要か、何がまだ学べていないのかがわかるので、適切なタイミングで学ぶ機会を設けられるようになり、すごく学びやすくなったと思います。

会社としてのビジョンが浸透していなかったときは、従業員それぞれがやりたいことをやっているような状態だったそうだ。共通のビジョンがあることで部署や個々の従業員の目指すところにも筋が通ってくるため、そのビジョンを理解してもらうための取り組みには特に力を入れた。 並行して、評価制度も大きく改革。スキルマップで設定した業務に必要な技能が評価の尺度になったほか、人事評価シートにて従業員の役割に応じた目標も設定。その達成度や貢献度をもとに賞与や昇進、昇格といった処遇に反映するなど、公平感を重視した制度となった。

伝統工芸の技能に、洗練されたデザインを加えた同社の商品

市橋さん:評価制度が曖昧だったころは、あの人は上司に気に入られているから優遇されている……といった不満を漏らす社員もいたんです。いまは自分の行動がはっきりとした基準で評価されるので、そういった不満の声もなくなり、社員の「がんばりの質」が変わったように感じます。

製造現場でリーダーを務める西山さんも、スキルマップの作成や評価制度の改革に効果を感じているのだという。

西山さん:自分の強みや弱みが細かいところまで見えるため、目標を具体的に立てられるようになりました。後輩に仕事のコツを教えるときも、その人の課題をつかみやすく、指導が的確になったと思います。

キャリアを高めるだけではなく、キャリアの幅を広げる取組を

ポイント1、3
製造部門と販売部門がともに学び合う機会を設定、
キャリアの幅を広げることを念頭においた配置転換や異動の実施

さらに同社では、都市部で働く販売部門の従業員が本社の工場に足を運んで行う社内研修をはじめ、部署を超えて学び合う機会も設けている。

市橋さん:販売部門の社員も、製造分野の熱意や完成までの苦労を知ることで、商品に込められた思いをお客様に伝えようと目がキラキラしてくるんです。販売を担う人たちが、自信を持って笑顔で仕事をしてくれるようになったのは、この取組の一番の成果ですね。

西山さん:工場に来るまでは、「流れ作業でつくっている」と思っている人も多いんです。実際に作業を体験してもらい、「一つひとつの商品にこれだけ手がかかっているのだから大事に売りたい」と思ってもらえると、本当に嬉しいですね。また、工場のほうでも、売り場からフィードバックをもらうことで、商品をどんどんブラッシュアップしています。

こういった学び合いで得たこともいかすべく、同社では従業員の「キャリアを高める」だけではなく、「キャリアの幅を広げる」ことを念頭に、柔軟な配置転換や異動を行っている。企画開発から製造・販売までを一貫して行う同社の特性上、複数の部署と連携・横断する業務も多く、他部署やほかの職種とのかかわりの中で培った能力やスキルをもとに、現部署の上位職や新たな部署での活躍など、大きな視点でキャリアを描いてほしいという意図によるものだ。

市橋さん:職人として働き、現場でキャリアを高めていっても、年齢を重ねるとともにそこでの仕事が難しくなってくることもあります。そのとき、現場での経験をいかしながら、新規事業を立ち上げる管理職として活躍する為に、キャリアの幅を広げることが大切になってきます。

キャリアの幅を広げるためには、それまでの経験のほか、新たな学びや学び直しも必要になる。同社では従業員の「新しい業務にチャレンジしたい」という思いを尊重して配置転換を行うことも多い。学んだことが自分のやりたい仕事に結びつくため、より前向きに学び・学び直しに取り組めるのだという。

社内研修で商品に込められた思いを共有する

キャリアを大きく描き、新たな挑戦をする風土が醸成

このほか、意見箱を活用して従業員の声を聞き、そこからヒット商品を生み出すなど、従業員の提案をいかし、トライ&エラーを促進する仕組みもつくった。こういった学び・学び直しの取組の結果、ものづくりの技能が継承されるだけではなく、伝統に捉われず新たな挑戦をする風土が醸成された。

イベントやワークショップなどを通じて、ものづくりや伝統工芸の魅力を発信することも多い

自社商品の展示会や工場の見学会を実施するなど、自社の魅力を積極的に発信することで県外からの採用も進み、地域の製造業のみならず、過疎化が進む地域全体の盛り上がりにも期待を持てるようになった。同社への転職に伴い他県から移住した西山さんも、新たなものづくりの可能性に惹かれ、キャリアを描き直したのだという。

西山さん:伝統工芸品の需要が減少する中で、漆器の技術をいかし、新たなものづくりに昇華させる取組に惹かれて入社する人は少なくありません。地域では産業観光のイベントも実施されているので、もっと若い人たちに興味を持ってもらって、地域全体で交流するような取組が広がっていくといいですね。

次代を担う人材がキャリアを大きく描くことで、地域の未来もひらかれていくのだろう。

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

株式会社Hacoa
代表取締役社長:市橋人士
所在地:福井県鯖江市西袋町503
従業員数:120名(2024年8月現在)
創業:1962年
資本金:300万円
事業内容:木製デザイン雑貨の製造・販売
企業HP:https://hacoa.com/

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