厚生労働省

職場における学び・学び直し促進ガイドライン特設サイト

KDDI株式会社

2024年11月01日

労使コミュニケーションの活性化で、
よりよい学び・学び直しの実現へ

KDDI株式会社

事業内容:モバイル通信・固定通信の提供、ライフデザインサービスの提供

業種
情報・通信業
地域
東京都
従業員数
301人~
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 労使による学び・学び直しの方向性の擦り合わせと従業員への周知・浸透
  2. ポイント2

    • 1on1による学びの方向性の共有や補正
  3. ポイント3

    • 社内副業や公募スキームによって「実践の場の確保」と「新たな挑戦」を促進
取り組みの成果
自律的なキャリア形成への意識が高まり、
やりがいや成長実感、挑戦意欲も向上

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

auブランドの携帯電話で一般の生活者にも馴染み深い通信事業をはじめ、DXや金融、エネルギーといった多様な分野で事業を展開するKDDI株式会社。2017年より働き方改革に取り組み、2020年からは「KDDI新働き方宣言」のもと、持続的な成長を実現するべく人事制度を刷新。社内大学の設立によりDXスキル向上の取組も推進するなど、学び・学び直しを含む改革を加速させている。また同社の取組は、綿密な労使コミュニケーションを重ねた上で実施されていることも特徴的だ。同社でともに改革に取り組んだ人事本部と労働組合の方々にお話を伺った。

挑戦意欲の低下も人事制度改革の要因

同社では幅広い知識や経験を持つジェネラリストの育成に力を入れてきたが、経営環境の変化によって国内の通信事業だけに頼っていては企業としての成長が難しくなり、新たな事業領域に挑戦するための専門性の高い人財が必要となった。さらに、エルダー(50歳以上の社員)の比率が4割以上を占めるという年齢構成の偏りもあり、若手従業員の早期育成とエルダーの継続的な活躍による持続的な企業成長を実現するべく、ジョブ型人事への移行に舵を切ったという。

折しも新型コロナウイルス感染症が拡大し、従業員の働き方が大きく変化。生活者のライフスタイルも変容したことで既存事業の改革や事業領域の拡大が急務となり、それらの対応を担うDXの推進や人財の育成も加速させることになった。 このような状況のもと、同社では2020年に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入。人事本部の鈴木創さんは、「若手を中心に、挑戦意欲の低下が見られた」ことも、新制度導入の背景にあったという。

人事本部 人事企画部 企画グループリーダーの鈴木創さん

鈴木さん:持続的な企業成長における懸念の一つに、30代の社員のエンゲージメント低下がありました。エンゲージメントの評価ツールにおいて、40代、50代の社員よりも、30代の社員のスコアが低かったんです。20代で意欲を持って入社したはずなのに、伸び代の大きい30代で意欲が落ちてしまう。社員からは「みんな同じ階段をのぼっていくような人事制度だから、がんばってもがんばらなくても同じ」という声もありました。がんばっている人には、より多く報いたいというのも、人事制度を改革するポイントだったんです。

労使コミュニケーションのもと改革を進める

ポイント1
労使による学び・学び直しの方向性の擦り合わせと従業員への周知・浸透

人事制度の改革にあたっては、まず改革の必要性を社員に浸透させる必要があったため、経営トップ自らが幾度もしっかりとメッセージを発信したという。

鈴木さん:四半期ごとの経営状況説明会や経営方針発表会で社長が目指してほしい社員像などについて語るほか、社長が各現場を回って社員に直接話をする機会も、繰り返し設けられました。

また同社では、学び・学び直しを含む広範な分野において、綿密な労使コミュニケーションが通年で実施されているが、人事制度の刷新に際しても、労使コミュニケーションが幾度も重ねられたと労働組合の登尾直樹さんはいう。

登尾さん:1年半から2年ほどは会社と協議を続け、多いときは週に3、4回議論をしていました。新制度の発案に至るまでの考え方や、社員はどのように将来を描けばいいのかというところから話をしました。

新制度は、旧来の制度からのフルモデルチェンジに近い内容であったため、導入の背景や目的、キャリア形成支援の方策、評価制度の適正な運用、賃金・報酬のイメージなど、幅広い項目にわたって、従業員から明確な説明の要望があったという。会社は労働組合からの意見も受けて、新制度についてまとめたハンドブックの配布やオンラインでの説明会などを通じて、従業員に幾度も丁寧に説明した。
また、DXの推進とそれに伴う学び・学び直しについては、従業員によって関心にばらつきがあったため、特に時間をかけての説明が必要だったという。

登尾さん:会社がつくる資料は経営者視点になりがちなので、旧来の業務から新しい業務への移行に戸惑う社員に、どう理解してもらうかといったことを念頭に、労働者側の視点もしっかり反映してもらいました。

KDDI労働組合中央本部 副中央執行委員長の登尾直樹さん

ポイント2
1on1による学びの方向性の共有や補正

DX推進の中心的な取組としては、2020年の夏に開講した社内大学「KDDI DX University(以下KDU)」がある。KDUでは、DX事業の展開や社内でDX推進を担う人財を育成する各種プログラムを提供している。KDDI版ジョブ型人事制度とKDUをひとつの流れで接続することで、「やらされ感」のない自律的な学びが促進されるのだという。具体的には、①KDDI版ジョブ型人事制度での能力評価を受け、②能力開発計画を立て、③KDUで必要な研修を選択して受講する、といった流れになる。
②においては、年に一度、従業員自身がキャリアプランについて考える機会を用意するほか、1on1 を頻繁に実施して上司とキャリアプランを共有し、学び・学び直しの方向性を定め、必要に応じて補正する取組を行っている。

登尾さん:労組としては、上司との対話がきちんとできているか、面談の時間をアンケートで聞くなどして実態把握に努めています。面談の時間が短いほど互いの理解度が低くなるという指標もありますので、データと照らし合わせて会社とも必要に応じて話をします。

一方で、現場の管理職にとっては、部下からの相談や指導に対応したり、より丁寧な評価フィードバックが求められたりすることにより、負荷が高まる傾向もある。人事本部の木村健一さんは、新制度の浸透に伴い、管理職の負荷を軽減していきたいという。

木村さん:新制度が導入された当初は、どうしても管理職向けの研修などが多くなり、特に負担が大きくなりました。すでに人事マネジメントについて一定の知識を得ている管理職は、自身で学びに必要なコンテンツを選べるようにするなど、新たな仕組みも模索しています。また、管理職向けの相談会もはじめました。

管理職向けの相談会の実施に先駆けて、事前に困っていることについてアンケートをとったところ、「部下が描いているキャリアプランと、実際の業務に乖離がある」という相談が多かったそうだ。

鈴木さん:キャリアプランを実現する道筋はひとつではなく、また仕事は必ずどこかで繋がっているものです。「いまの業務で得られるスキルの中にも、キャリアプランの実現に役立つものがあるはずだから、それを見つけましょう」といったように、個々の状況に応じたアドバイスをしています。

人事本部 人財開発部 タレントマネジメント推進グループ グループリーダーの木村健一さん

ポイント3
社内副業や公募スキームによって「実践の場の確保」と「新たな挑戦」を促進

通常の業務がある中で、「学ぶ」ということの優先順位がなかなか上がらないという課題もあった。そこで同社では、研修前に、その研修が本人の実務でのスキル発揮に必要であることの理解浸透を目的とした説明会を実施したり、業務の都合で研修を欠席しても学びが途切れないよう、アーカイブ動画などでフォローできる仕組みを整えたりと、「学びの入口」を広げる取組を行った。
また、KDUのプログラム受講後の課題として、学んだスキルを発揮する場が十分にないケースもあったそうだ。そこで、社内副業や公募スキームの活用によって、学んだことを発揮できるプロジェクトなどへの参画を促進した。

木村さん:当社には、就業時間の2割までの範囲で、社内副業として別の業務に従事できる制度があるんです。

副業先での経験を通して新たな視点を獲得することで、従業員の成長が加速したり、キャリア観に幅が出たりするのだという。また会社としても、イノベーションの創出や適材適所の実現といったメリットがあるそうだ。労働組合の小川原亮さんも、社内副業の効果については注目していたという。

KDDI労働組合中央本部 政策局長の小川原亮さん

小川原さん:副業に関しては先駆的な取組をされていた企業も多かったため、労組としても関心を持っていたんです。KDDIでも社内副業制度を導入しようとなったときは、労働時間等の勤務管理や副業による評価の仕方などについて、労使でしっかり議論しました。制度の導入後も、副業先での就労状況や評価への影響など、実態を把握できるように努めています。

このほか、同社では社内での人財の公募も行っている。成長領域を担う人財の公募をはじめ、ライン長やエルダー人財も公募し、自律的なキャリア形成につながる異動が実現しているのだという。

学び・学び直しを含む改革を実施するにあたっては、すべての従業員が同じスピードで順応することが理想だというが、実態としてはやはり困難が伴うそうだ。労働組合の伊藤友明さんは、社員のあいだで格差や分断が生じないように、労使コミュニケーションの中で適宜意見することが大切だという。

伊藤さん:会社に「できる人たちだけで物事を決めないでほしい」ということは常々伝えていたんです。コロナ禍で働き方が変わりDXが加速したときも、会社が委員会やワーキンググループをつくって社員と議論しながら変革を進めていったのですが、うまく順応できない社員にも議論に参加してもらって、多様な視点をもとに検討するように申し入れました。

KDDI労働組合中央本部 事務局長の伊藤友明さん

学び・学び直しへの理解が深まる

以上のように、従業員一人ひとりが自律的なキャリア形成を真剣に考えられるような環境整備を、労使双方の立場や役割の中で進めた結果、従業員の学び・学び直しへの理解が深まり、能動的なアクションへの意識付けも高まったという。実際、エンゲージメントの調査ツールにおいても、「やりがい」「成長実感」「挑戦意欲」など、学び・学び直しの観点で重要な項目のスコアが向上したそうだ。
また一連の改革によって、労使間のコミュニケーションが活性化したことも大きな成果だったと関係者は振り返る。

登尾さん:労使協議においては、かつては激しいやり取りをした時代もありましたが、今回の改革やその背景にある課題の共有を通じて労使の距離が近くなったように感じます。

鈴木さん:週に何度も議論を重ね、膝をつき合わせて話をする中で、社員のため、そして会社のために、労使がともに同じ方向を見て建設的な議論ができるようになりました。

学び・学び直しに対しても、その必要性を再認識できたという。

小川原さん:新制度の導入につながった課題のひとつとして、30代からのモチベーション低下がありましたが、私自身、入社して10年を迎え、周囲の様子などからもそういった傾向を実感していました。そんな課題を解決するべく、人財育成にしっかりお金と時間をかけて取り組むという会社の姿勢に、すごく共感できたんです。会社と労組で立場は違いますが、ともに実現しようと思えました。

伊藤さん:私は15年ほど労組の役員をしていますが、年功序列的な賃金体系から、評価によって賃金が上下する仕組みを取り入れたときに、ベテランの社員から「いまさら能力で評価なんて…」といわれたことがあります。でも私は当時から、40代、50代になっても、学び続けることで能力はあがっていくと訴えていたんです。いま、その考えは間違っていなかったと実感しています。組合員の声をただ受け止めるだけではなく、意識を変えられるような投げかけをすることも、労組の大切な役割だと思っています。

今回の取組をきっかけに、労使間のコミュニケーションの場をさらに広げていく動きもあるという。労使が、それぞれの成長の実現に向けてともに進んでいくことで、学び・学び直しも大きく発展していくのだろう。

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項
参考となる公的支援策

一覧をみる

Company date企業データ

KDDI株式会社
代表取締役社長:髙橋誠
所在地:東京都千代田区飯田橋3丁目10番10号 ガーデンエアタワー
従業員数:61,288名(2024年3月31日現在)
創業:1984年
資本金:1,418億5,200万円
事業内容:モバイル通信・固定通信の提供、ライフデザインサービスの提供
企業HP:https://www.kddi.com/

企業事例一覧へ戻る

  • 公的支援策のご紹介

    多くの職場、多くの皆様が「学び・学び直し」に取り組むことができるよう、各省庁が連携して各種公的支援策を講じています。支援内容の詳細や申請方法も御参照の上、是非御活用ください。

    公的支援策のご紹介
  • 学び・学び直し診断コンテンツ

    学び・学び直しを推進するうえで重点的に取り組むべきポイントを把握できる診断コンテンツをご用意しています。診断結果に応じて、おすすめの企業事例や公的支援策なども表示されます。是非御活用ください。

    ガイドライン・公的支援策活用のためのチェックリスト