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万協製薬株式会社

2024年8月09日

地域に根ざした学びの推進で
「人に必要とされる会社」に

万協製薬株式会社

事業内容:外用薬(クリーム剤、軟膏剤、液剤)専門の受託開発・製造

業種
医薬品製造業
地域
三重県
従業員数
100~300人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 部門ごとの役割や業務に必要な能力をモジュールシステムで細分化
    • 業務の進め方やノウハウを手順書やマイスターブックに整理
  2. ポイント2

    • モジュールシステムで従業員の知識や技術を適切に評価
    • 身につけた能力やスキルに応じたジョブローテーションを実施
  3. ポイント3

    • 階層ごとにリーダーを設定してメンバーをフォローする時間を確保するなど、伴走型リーダーを育成
取り組みの成果
個々の学び・学び直しが経営の改善に結びつき、
会社をよりよくする意識が従業員に浸透

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

1960年に兵庫県神戸市で創業した万協製薬株式会社。長年、オリジナルブランドの外用薬を製造してきたが、1995年の阪神・淡路大震災によって本社工場が全壊。翌年、三重県多気郡に本社工場を移転し、再操業を果たした。スキンケア製品の開発・製造に特化して業績を拡大し、2012年にはホールディングス化を成し遂げ、現在ではグループの売上が95億円、社員数は1200人にものぼる。人材開発を含む経営改革が高く評価され、厚生労働省の「グッドキャリア企業アワード2020」の大賞をはじめ、数多くの受賞歴を誇る。同社の学び・学び直しの取組について、代表取締役社長の松浦信男さんと従業員の方々に話を伺った。

地域で採用した人材を含め、従業員が学び・学び直しに取り組むためには

松浦さんは神戸市で被災した際に、従業員の誰からも「会社を存続させてほしい」という声があがらなかったことにショックを受けたと当時を振り返る。再建にあたっては、「人から必要とされる会社をつくる」ことをテーマに掲げ、新たに現地で採用した従業員とともに、苦しい時期を乗り越えながら、働きやすい組織づくりに取り組んできた。

代表取締役社長の松浦信男さん。同社の歩みは著書『人に必要とされる会社をつくる』でも詳しく紹介されている

松浦さん:当社では「地域の若者を一人でも多く採用すること」を社会貢献の最重要項目としています。地域の若者が都会に出て働くのではなく、実家からそのまま会社に通えたら、そのぶん可処分所得が増えます。また、若者が地元で活躍してくれることで、地域のさまざまな活動を維持することもできます。

このような考えから、同社では技術系の高度人材を全国から採用しているが、製造部門は主に地元の高等学校へ積極的なアプローチを行っているという。地域の人材を採用するにあたり、「どうすれば製薬という難しい仕事にチャレンジしてもらえるか」を検討した。技術系の人材と製造部門の人材との間の意識や考えの差を小さくすることも課題だったという。これらを解決するべく、松浦さんは従業員の学び・学び直しの意欲を刺激し、教育の機会を多く提供できる仕組みを構築していった。

部門ごとに達成するべき能力を設定し、習熟度を可視化

ポイント1
部門ごとの役割や業務に必要な能力をモジュールシステムで細分化、業務の進め方やノウハウを手順書やマイスターブックに整理

同社に入社した従業員は、まず所属先のリーダーから、キャリアアップについての基本的な説明を受ける。その上で、具体的にどのような知識や技術を身につけていくかなど、リーダーと一緒にキャリアアッププランを立てていくのだという。

松浦さん:当社では「個人の成長が会社の成長につながる」という考えのもと、まずは配属された各部署で各人がスキルを高めることを重視しています。そのために導入したのが、当社独自の「モジュールシステム」です。

モジュールシステムでは、部門ごとに達成するべき能力を設定し、その習熟度を数値によって可視化する。各業務を構成する要素をモジュールとして細分化し、難易度により3つにレベル分けした上で、さらに4段階に設定した習熟度の基準に沿って点数がつけられる。このモジュールシステムの取得点数によって、従業員は自分に足りない知識や技術を把握し、なにを学ぶべきかを明確にすることができる。

また、モジュールシステムの運用にあたっては、業務ごとに詳しい手順書もつくられた。手順書の作成や更新は現場の従業員が担うこととしているが、その過程で業務の振り返りや整理が行われるため、作成や更新を担う従業員にとっても大きな学びの機会になるという。近年は手順書から一歩踏み込んだノウハウをまとめたマイスターブックも作成し、より高度な知識や技術の共有も実現している。

ポイント2
モジュールシステムで従業員の知識や技術を適切に評価、身につけた能力やスキルに応じたジョブローテーションを実施

モジュールシステムによって、従業員の知識や技術を適切に評価できるようになり、同社の学び・学び直しの取組は大きく発展した。

松浦さん:モジュールの習得率を賞与や昇給に反映させたことで、自分が働く部署で必要な能力などについて自主的に学ぶ社員が増えました。また、手順書やマイスターブックは、自分の部署以外のものも自由に閲覧できるため、部署を横断した視点を持てるようにもなりました。

ほかの部署の情報にふれることで、異動に対してポジティブな印象を抱く社員が多いという。生産管理部で部長を務める高島久美さんも、モジュールシステムによってジョブローテーションが円滑になったという。

従業員のキャリア形成を支援している高島久美さんは、自身も「万協製薬に入って人生が大きく変わった」という

高島さん:特定の業務のモジュール習得率が高くなると、その後は必然的に点数がなかなか上がらなくなります。このとき、「同じ部署の違う業務を習得したい」「違う部署の業務に挑戦したい」といった意欲があらわれ、新しい業務への挑戦や他部署への転籍を前向きに考えるようになるんです。

同社では年度はじめに従業員それぞれが取り組むべき目標などを設定するキャリアアッププランを作成するが、定期的に行われるプランの見直しにも習熟度の可視化が役立っているそうだ。

キャリアアッププランを立てる際、「会社に背中を押してもらったことがよかった」と話す村田陽太さん。

高島さん:入社2年目からは自分でキャリアアッププランをつくるのですが、目標設定の難易度は社員によって差が出やすく、リーダーが内容を確認し、ともに考えながら修正していきます。3ヶ月に一度は振り返りを行い、その人の成長度や能力に合わせて、無理がなく、かつモチベーションを高められる目標設定になるようにアドバイスをしています。

同社で日々学び・学び直しに取り組む開発部の村田陽太さんも次のように語る。

村田さん:目標の設定理由が明確か、ただ単に「やってみよう」といわれるかでは、受け止めがまったく違います。将来を見据えて会社と定めた目標なので、それに必要な学びは、納得感を持って進めることができています。

リーダーが伴走支援をするための時間を確保

ポイント3
階層ごとにリーダーを設定してメンバーをフォローする時間を確保するなど、伴走型リーダーを育成

同社の学び・学び直しに欠かせないモジュールシステムだが、当初は従業員に仕組みや意義を理解してもらうのに苦労したという。

高島さん:部署内でモジュールのどの項目の習得が進んでいるか、グラフにまとめて共有しようとしたときも、当初は成績や序列をつけるようなイメージで捉えられてしまい、「個人の成績を公開するようなことはやめてほしい」といった声がありました。部署内の習熟度を平準化するために共有するという趣旨や、個人の成長をみんなで支えるといった姿勢について、リーダーやサブリーダーが個々に説明を行い、理解を得ていきました。

同社ではリーダーのほかに、サブリーダーやプチリーダーといったリーダー職を多く設けることで、個々の従業員が気軽に相談できる環境をつくり、またリーダーにとっても学びを得る機会を増やしている。

松浦さん:三重県に移転して従業員が増えはじめたころ、あるパート従業員に役職につくことを打診したのですが、自分には無理だと固辞されたんです。確かに、突然リーダーになってほしいといわれても、すぐに引き受けるのは難しいでしょう。しかし、リーダーシップを育てるには、リーダーの経験をするしかありません。それならばとハードルを下げたのが、プチリーダーのはじまりです。小さな単位のリーダーでも、リーダーシップを身につける教育になることに気づいたんです。

業務が行われている中でも、たびたび学びの輪ができる

プチリーダーが従業員3〜4名からなるチームをまとめ、プチリーダー数名をサブリーダーが支援する。そのサブリーダー数名をリーダーが支援するといった形で、それぞれの階層のリーダーがある程度の余裕を持って伴走支援をすることが可能になった。

松浦さん:教えること、人を見ることには時間が必要です。リーダーに時間をつくってあげることも、会社ができる大きな支援です。会社の組織図というと、社長や経営幹部を頂点としたピラミッド型をイメージする人が多いと思いますが、当社ではお客様に一番近い現場の社員が一番上にくる逆ピラミッド型の組織を描いています。社長や経営幹部は、社員やリーダーを支える立場なんです。

従業員自らが主体性を持って、よりよい会社づくりを推進

以上のような改革が実を結び、従業員は自分の業務だけではなく、部署をまたいだ課題や会社全体の経営にも目を向けるようになった。会社も社員の声を経営に取り入れる姿勢を見せたことで、従業員自ら「会社をよくしていこう」という機運が高まり、経営改革につながる提案が積極的に行われるようになったという。

松浦さん:当社には「社長直行便!万協をもっと、良くしよう提案書」という、どんなことを提案しても賞金がもらえる制度があります。年に一度は「成果発表会」を開き、提案の優秀賞を決める公開プレゼン大会を実施するなど、部署を横断した提案や改善が起きやすい仕組みができています。これらの提案・改善によって、年間1億円近い経費の削減が実現しています。

中小企業に向けた講演会などにも数多く登壇している松浦さんは、「会社にできることはたくさんありますが、まずは社員が主体性を持って学び直し、毎日の仕事を少しずつでもよくすることを支援するだけでもいいと思いますよ」とエールを送ってくれた。

従業員から寄せられた提案書は、松浦さんがすべて目を通し、一つひとつコメントをつけた上で、社内に掲示される

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

万協製薬株式会社
代表取締役:松浦信男
所在地:三重県多気郡多気町仁田725-1
従業員数:257名(2024年6月現在)
創業:1960年
資本金:4,000万円
事業内容:外用薬(クリーム剤、軟膏剤、液剤)専門の受託開発・製造
企業HP:https://www.bankyo.com/

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