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株式会社フジワラテクノアート

2024年8月09日

「あるべき姿」を従業員とともに描き、
よりよい未来に向けた学びと挑戦を続ける

株式会社フジワラテクノアート

事業内容:醸造機械などの開発、設計、製造、据付、販売および
プラントエンジニアリング

業種
製造業
地域
岡山県
従業員数
100~300人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 経営理念や開発ビジョンを通して、社員の学び・学び直しの方向性を明確化
  2. ポイント2

    • 従業員本人が上長と話し合いながら学び・学び直しの方向性や目標を検討し、「5か年ビジョン」として整理
  3. ポイント3

    • 管理職や現場のリーダーとともにマネジメントのあり方を検討し、「マネジメントウェイ」として言語化
取り組みの成果
学びに積極的に取り組む企業風土ができ、
採用環境も大きく改善

醤油や味噌、日本酒に焼酎といった醸造食品をつくるのに欠かせない機械やプラントにおいて、トップメーカーとして知られる株式会社フジワラテクノアート。国内約1500社の取引先に加え、海外27か国への輸出も行い、日本の食文化を支える醸造技術を海外に広めるなど、グローバル企業としても存在感を増している。2019年には、30年後の未来に向けて、環境問題や食糧問題といった社会課題の解決を目指すビジョンを打ち出した。新たな学びや挑戦を続ける同社の取組を、代表取締役副社長の藤原加奈さんや社員の方々に伺った。

時代の変化に対応するための、組織の「あるべき姿」とは

同社は2000年代に醸造機械の分野で国内シェア8割を持つほどに成長したが、経営環境が安定していることから新たな目標をなかなか見出せず、技術革新などに必要な学び・学び直しも生じにくい状況だった。一品ごとのフルオーダーメイドでものづくりをすることが多い同社では、社員それぞれが「個人商店」のように働いていたと藤原さんはいう。

藤原さん:長年の経験があるベテランは、自分で判断して自分で仕事を完結できますが、若い社員も増えてきたため、それでよいとはいえなくなりました。また、トータルエンジニアリング(顧客への提案から設計、製造、据付までの諸業務を一貫して提供すること)も推進するようになり、1つのプロジェクトに関わる人数も増えたことから、組織で結束することの重要性がますます高まりました。

時代の変化に対応するには、個々の従業員の能力を向上させながら、組織的にものづくりを担える体制を整えなければならなかった。しかし、同社では従業員間の知識や技術の共有がうまく進んでおらず、執行役員の西村直純さんも「ナレッジ共有といった概念すらほとんどない状態で、自分が知っていればいい、 聞かれたら教える、といったスタンスの社員が多かったんです」と振り返る。また、現場の仕事を大切にするあまり、管理職になりたいという人材も少なかったという。

藤原さん:社員一人ひとりは自分の仕事に対し熱い思いを持っていて、お客様に向けては一所懸命に仕事をしてくれるのですが、社内に目が向かない人が多かったんです。

この頃は新規人材の採用にも苦戦しており、中小企業で働く魅力について、社内でヒアリングをするなどして、改めて自分たちの思いや大切にしたいことを見つめ直した。

藤原さん:私自身、中小企業の仕事は個々の社員の挑戦できる幅が広いといった、面白い部分がたくさんあると感じています。社員の話を聞いてまわり、仕事にやりがいや誇りを感じている部分を探りました。それを大切にしながら、会社のあるべき姿を見つけようと思ったんです。

代表取締役副社長の藤原加奈さん。人材開発をはじめ、さまざまな経営改革を推進している

経営理念を刷新し、新たな挑戦を行うための開発ビジョンも策定

ポイント1
経営理念や開発ビジョンを通して、社員の学び・学び直しの方向性を明確化

従業員一人ひとりの努力もあって、顧客とは深い信頼関係で結ばれていたが、次なる成長を目指すためには、会社として理念やビジョン、目標を示す必要があった。同社が目指すべき姿を改めて検討し、まずは2016年に30年ぶりとなる経営理念の刷新を行った。

藤原さん:人材開発における基本的な考え方は、この経営理念に根差しています。経営理念には、社員の適性や能力、多様性を尊重し、組織全体が共通の使命に向かって協力することの重要性を表現しました。

西村さん:経営理念として言語化することによって、会社の目指すところを、個々の社員もだんだん意識するようになりました。

2019年には、30年後の未来に向けた「開発ビジョン2050」をスタートさせた。これまで培った知識や技術をもとに、さまざまな社会課題を解決するべく、新たな挑戦を行うためのビジョンだ。

執行役員を務めながら、先進技術開発部の部長とテックサポート室の室長も担う西村直純さん。従業員の学び・学び直しを推進しながら、自らも岡山大学大学院の博士課程で学ぶ

藤原さん:開発ビジョンをつくるときも、最初から目指す姿が明確になっていたわけではなく、みんなで議論を重ねて課題や方向性を探っていきました。でも最初から出来上がったビジョンに共感してくれる人は、それほど多くありませんでした。

月に一度すべての従業員を集めてビジョンを共有したり、ビジョンの実現にあたって、将来的な課題やその解決策をテーマとしたワークショップを実施したりするなどして、社内への浸透をはかった。とりわけベテランの社員には、言葉を尽くして粘り強く説明したという。

藤原さん:若い社員は30年後の未来に向けた話でも抵抗なく受け入れてくれる場合が多かったのですが、ベテランの方々はそうはいきませんでした。これまで会社のために長年さまざまな挑戦をしてくれた方々ですので、新たな挑戦が必要だといわれたときに、過去を否定されたような気持ちになったのかもしれません。ベテランの方々が挑戦してくれた過去があるからこそ、いまがあり、未来へと向けた新たな挑戦ができるという「つながり」をきちんと説明することを心がけました。

Will・Can・Mustを意識した5か年計画で、個々の従業員の学びを促進

ポイント2、3
従業員本人が上長の助けを受けながら学び・学び直しの方向性や目標を検討し、「5か年ビジョン」として整理、
管理職や現場のリーダーとともにマネジメントのあり方を検討し、「マネジメントウェイ」として言語化

開発ビジョン2050では、部門ごとのあるべき姿も明確にし、個々の従業員の学び・学び直しにまで落とし込んでいる。

藤原さん:もともと理念やビジョンを提示する際に、学び・学び直しを強調したわけではなかったんです。あるべき姿の実現には、社員それぞれの新たな視点やスキルが必須だということが浸透してきて、自発的に学ぶ社員が増えました。

一人ひとりが担うべき役割と、それに必要な学び・学び直しなどを言語化し、従業員個別の「5か年ビジョン」としてまとめた。5か年ビジョンの内容は、社員それぞれがWill・Can・Must(やりたいこと、できること、すべきこと)を記入したシートもとに、本人と上長が話し合って決めるのだという。

藤原さん:5か年ビジョンを達成するには、マネジメント層の役割が重要だと考えています。体系的にマネジメントについて学ぶ機会が、個人商店の時代にはなかったため、「管理職」という役割に持つイメージも人それぞれでした。エンゲージメント(会社に愛着を持ち、深く関わろうとすること)を高めるマネジメントのあり方など、管理職やリーダーの役割について意識改革を進めました。

西村さん:管理職やリーダーの意見を集めて整理し、どんなマネジメントが必要なのかを擦り合わせて、「マネジメントウェイ」としてまとめました。その内容を冊子化して配布し、折に触れてフィードバックの方法や傾聴の姿勢などを確認できるようにしています。

藤原さん:多様性の時代のマネジメントは簡単ではなく、特に一人ひとりに寄り添いながら1つの方向に導くのは非常に難しいことだと思います。マネジメント層にばかり負担をかけるわけにはいかないという思いもあり、マネジメントウェイという形で言語化したんです。

また管理職やリーダー以外にも、すべての従業員を対象に、ビジョンを実現していくカルチャーをつくるための行動指針を「フジワラウェイ」としてまとめて共有した。このような取組を進めるうちに、学ぶのが当たり前、挑戦するのが当たり前といった企業風土ができてきたと藤原さんはいう。その土壌づくりの一環として、従業員の不満が大きかった人事制度も労使双方で何度も話し合って改善し、評価制度や報酬制度なども非定型業務を自律的に遂行する人材を評価できるように刷新。メンター・メンティ制度や、社内インターンシップ制度といった従業員の学び合いを促進する制度も整えた。また、従業員の学ぶ意欲に応えるべく、資格報奨金制度や、会社に所属したまま大学院で学べる「社会人ドクター」といった制度も新設した。

取材時にお話を伺った技術部設計企画グループの川上尚美さんと、経営企画室課長の頼純英さん(後ろ姿)は、メンティーとメンターの間柄。川上さんがメンターの頼さんから多くの学びを得ていることはもちろん、頼さんも川上さんに教えたり、その考えかたや価値観に触れたりすることで、自身の学び直しにつながっているのだという

学び・学び直しの土壌が整い、意欲的な人材も増加

以上のような取組の結果、学び・学び直しの土壌が整い、個人商店の様相を呈していたころにはなかった知識・技術の共有や学び合いも進んだ。それに伴い個々の従業員の意識やスキルも高まり、また学んだ内容をいかせる挑戦の場があることで、やりがいや満足度、エンゲージメントの向上につながったという。

顧客の商品である日本酒や焼酎の瓶をディスプレイした社員食堂。仕事の成果を実感してほしいと、顧客の手がけた醤油や味噌をメニューに活用している

藤原さん:従来は、担当する仕事の中だけで挑戦することが多かったのですが、近ごろは案件や業務を超えたイノベーションやDX(デジタル技術の活用によるビジネスの変革)に挑戦する社員が増えています。

3年以内離職率は低水準を維持し、採用環境も大きく改善したという。学び・学び直しも含め、組織によい影響を与えてくれる人材が増えたと藤原さんは笑顔を見せる。

藤原さん:当社は中小企業ですので、1人が成長することで大きく会社が変わります。そして、新卒でも中途でも、よい人が入社してくれると、会社もさらによい方向に変わり、改革をより強力に進めることができます。

学び・学び直しの土壌に既存の従業員が根を張っていくだけではなく、新たな人材によって、また違った芽が育とうとしている。開発ビジョンのターゲットである2050年に向けて、同社の取組が花開いていくことに期待したい。

本事例で特に力を入れて取り組んだ職場における学び・学び直し促進
ガイドライン

Ⅱ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

株式会社フジワラテクノアート
代表取締役社長:藤原恵子
所在地:岡山県岡山市北区富吉2827-3
従業員数:150名(2024年4月現在)
創業:1933年
資本金:3,000万円
事業内容:醸造機械などの開発、設計、製造、据付、販売およびプラントエンジニアリング
企業HP:https://www.fujiwara-jp.com/

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