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佐川印刷株式会社

2024年8月09日

経営環境の変化を乗り越え挑戦し続けることで、
付加価値の高い商品を提供できる企業へ

佐川印刷株式会社

事業内容:印刷、広告、WEB・動画などの企画制作

業種
情報通信業
地域
愛媛県
従業員数
50~99人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 理念やビジョン、スローガンなどを効果的に用いて、学び・学び直しの必要性を従業員に周知
  2. ポイント2

    • 社会課題の解決を目指す活動に従業員を参加させるなど、社内外でリーダーの能力開発を推進
  3. ポイント3

    • 経営者やリーダーが従業員と積極的にコミュニケーションをとってサポート
取り組みの成果
新たな製品やサービスでの新規受注が実現し、
従業員のやりがいも向上

1947年に愛媛県宇和島市で創業した佐川印刷株式会社。1990年には松山市に本社を構え、印刷業を中心に愛媛県全域に営業エリアを広げている。2023年12月には75周年を迎えた。印刷業を取り巻く経営環境が急激に変化する中、2000年より社長に就任した佐川正純さんはデジタル印刷をはじめ事業領域を拡大し、従来の印刷業にとどまらないマルチメディアに対応したサービスを多数展開。経営改革を推進するのに欠かせなかったという同社の学び・学び直しの取組について、佐川さんや従業員の方々にお話を伺った。

経営環境の変化に伴う課題が山積

同社3代目の代表取締役を務める佐川正純さん。瀬戸内海が美しく映える壁紙は、同社の精緻な印刷技術によるもの

地域の印刷物を長年手がけてきた同社だが、インターネットの出現やIT化の加速、ペーパーレスの進展等の環境の変化に伴い、旧来の印刷業務だけでは経営を支えることが難しくなり、時代の潮流に合わせた付加価値の高い新事業の開発が求められた。また、少子高齢化や若者の流出によって人手不足が慢性的になり、生産性を高める手段を模索するとともに、地元の新卒女性人材を積極的に採用するなど、地域の人材の活用にも取り組んできた。

佐川さん:女性社員の定着が進むに連れ、今度はライフステージの変化にどう対応するかという課題が生じました。仕事と家庭の両立に悩んだり、役職につくのを尻込みしたりする女性社員も少なくなかったんです。

女性の従業員にとって、目標や指針となるロールモデルが求められたという。このように、同社はさまざまな経営課題が眼前にあらわれる中、学び・学び直しを含む経営改革を進めていった。

経営改革を成し遂げるには、従業員の学び・学び直しが不可欠

佐川さんは経営改革の推進にあたって、「会社が提供できる付加価値を向上・拡大させるのは、そこで働く人たちにほかならない」と従業員の学び・学び直しが不可欠だと考えた。その一方で、学び・学び直しの推進は一朝一夕では難しいとも考え、長期的に取り組めるように準備を進めた。

佐川さん:そもそも人間、一生勉強だと思うのですが、急に学びや学び直しに取り組もうといっても、社員の胸に響かないでしょう。日ごろから学びや学び直しの必要性について周知するなど、学びの土壌づくりは欠かせません。

そこで佐川さんは、まずは理念やビジョンを明確に打ち出し、社内に浸透させることからはじめた。

一丸となって取り組むことの重要性を繰り返し説き、チャレンジする風土を醸成

ポイント1
理念やビジョン、スローガンなどを効果的に用いて、学び・学び直しの必要性を従業員に周知

佐川さんは会社や従業員の目指すべき方向を理念やビジョンとして示すだけではなく、ときにはスローガンのようなわかりやすい言葉で表現した。それらを朝礼や会議の席で語るだけではなく、仕事の現場でも積極的に発信した。付加価値や生産性を向上させるには、従来の業務のやり方を大きく変える必要があり、従業員からは反発もあったそうだが、「いまチャレンジをしなければ、仕事も給料も増えないばかりか、会社を維持することもできない。全員で一緒になって改革しよう」と毎日のように訴え続けた。

佐川さん:新しい商品のアイデアを出したり、新事業に必要なスキルを磨いたりするには、会社が相応の時間をつくらなければなりません。それを実現する仕組みとして、「SAKAWA DIET PRODUCTION SYSTEM」を構築しました。

人間がダイエットをするのと同じように、企業における生産や製造も健全で効率的なものにしていく必要がある。そんな思いで名付けられた業務改善システムをもとに、同社はスマートファクトリー化を推進した。

佐川さん:このシステムでは、すべての業務を「見える化」しました。この仕事に何時間かかり、どの程度の利益が出ているのか、といった正確な数字を示さないと、改革を受け入れてもらえないと思ったからです。

従来の経営努力だけでは付加価値を高めるのが難しい仕事は、デジタルを活用するなどして自動化を進めた。そうして生産性が高まることで、従業員はより付加価値の高い仕事に挑戦し、またそれに必要な学び・学び直しに時間を確保できるようになった。

スマートファクトリー化が進んだ同社の工場

ポジティブ・アクションを通じて学び・学び直しのリーダーを育成

ポイント2
社会課題の解決を目指す活動に従業員を参加させるなど、社内外でリーダーの能力開発を推進

また、佐川さんは女性の従業員が活躍しやすくなるように環境の整備にも着手し、「ポジティブ・アクション(女性の従業員において、管理職の増加や職域の拡大など、男女労働者間の格差の解消を目指し、企業が自主的に行う取組)」を推進した。当時、育児休業から復帰した加納飛鳥さんをポジティブ・アクション推進リーダーに任命し、地域の中小企業が集まって女性の活躍推進に取り組む「ポジティブ・アクション展開事業(厚生労働省委託事業)」に参加してもらった。

経営管理部の次長を務める加納飛鳥さん

佐川さん:加納さんと一緒にポジティブ・アクションに取り組んだことは、私自身の学び直しの機会にもなりました。

加納さん:ポジティブ・アクション展開事業で同じような課題を持つ他社の女性の従業員と交流できたことは、貴重な経験でした。その後も研修やセミナーに参加させていただき、外部で学んだことを社内に持ち帰ることができました。

当初は、社内にいなかったロールモデルを、社外で得るような効果もあったそうだが、やがて加納さん自身が社内外でメンターとして活躍の場を広げ、ロールモデルといえる存在になった。

ポイント3
経営者やリーダーが従業員と積極的なコミュニケーションをとってサポート

業務改善や環境整備を進めながら、従業員の学び・学び直しを促進するメニューも充実させていった。若手従業員、中堅従業員、管理職など各階層における能力開発研修のほか、営業力や生産技術、ITスキルなど新たな挑戦に必要な知識や技術を得るための研修や講座を適時受けられるようにし、自主的な学び・学び直しを応援する資格取得奨励制度も整備。こういった多様な学び・学び直しのメニューを効果的に運用するために、佐川さんや加納さんは日ごろから従業員と積極的にコミュニケーションをとっているそうだ。

佐川さん:教育訓練の充実度は、地域ナンバーワンを目指しています。しかし、会社の考えを一方的に押し付けるようなことはしていません。教育制度などをしっかりつくることも重要ですが、社員の事情や価値観を尊重し、一人ひとりに合わせて柔軟に対応することが大切です。

加納さん:近ごろは女性の管理職から部下の育成について相談を受けることも増えてきました。社員それぞれに適した研修を提案するようにしています。

加納さんは、若手従業員が中心となって取り組むSGDsの推進プロジェクトで責任者も務めている。

加納さん: SGDsの推進プロジェクトを通して、「こんな仕事に挑戦したい」といった若い社員の声を拾い上げることもできるようになりました。

社内の資源をもとに、どのようにSGDsに貢献できるかを考えることは、新しい製品やサービスにつながるヒントにもなったという。このほか、部署横断型の勉強会や社内プレゼン大会なども実施し、社内の知見やアイデアが広く共有されたことも、新規事業の創出につながった。

SGDsの推進プロジェクトで若手従業員が手がけた階段広告

仕事の楽しさややりがいが増したことが一番の成果

印刷という枠にとどまらず、新製品や新サービスの開発、新規事業の創出に果敢に挑戦する同社だが、未知の分野であっても専門人材は基本的に登用せず、既存人材の能力開発で対応する方針を堅持しているため、従業員は心理的安全性を保った上で学び・学び直しに取り組めるのだという。

佐川さん:私は社員が変われば、おのずと会社も変わると思っています。それを社員もよく理解しており、会社の目指すところを説明すれば、自ら必要な学びに取り組んでくれるようになりました。先行して学んだ社員が、ほかの社員に教えるといった学び合いも起きています。これも心理的安全性や信頼関係があってのことではないでしょうか。

デジタル技術を磨くなど、学び・学び直しによって業務の領域は大きく広がった

学び・学び直しを含む経営改革を進めた成果は、従業員の定着率や女性の管理職の比率が向上したり、給与をはじめとする処遇が改善したりと、数字にもあらわれている。また、2016年度には経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれ、2018年度には愛媛県法人連合会による「女性が働きやすい企業風土づくりコンテスト」のグランプリを受賞。このように多くの成果を得た同社だが、佐川さんは「製品やサービスの付加価値が向上したり、提供できる商品の幅が拡大したりすることで、社員が感じる仕事の楽しさややりがいが増したことが、学び・学び直しの一番の成果です」と笑顔で話を結んだ。

本事例で特に力を入れて取り組んだ職場における学び・学び直し促進
ガイドライン

Ⅱ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

佐川印刷株式会社
代表取締役社長:佐川正純
所在地:愛媛県松山市問屋町6-21
従業員数:81名(2024年6月現在)
創業:1947年
資本金:1,000万円
事業内容:印刷、広告、WEB・動画などの企画制作
企業HP:https://www.sakawa.co.jp/

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