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隂山建設株式会社

2023年10月27日

地方から、建設業界全体を変える挑戦へ

隂山建設株式会社

事業内容:建築、土木に関する総合建設請負工事

業種
建設業
地域
福島県
従業員数
50名
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • ドローンの操縦に要する能力・スキルを建設現場で日常的に発揮
    • すべての従業員が、現場管理アプリ「ビルモア」を業務で活用
  2. ポイント2

    • 経営者自らリーダーとして従業員の学び・学び直しを牽引
    • DX推進の専門部署が、経営者の強いメッセージを受け取って、従業員の学び・学び直しを促進
  3. ポイント3

    • 現場管理アプリの開発・運用が学び合いを促進
取り組みの成果
DXと学び・学び直しで女性も含む多様な人材が活躍
建設業界の人手不足解決に寄与するアプリもリリース

※本記事の内容、役職、部署名は取材当時のものです

隂山建設株式会社は福島県郡山市で1954年に創業し、地域の建築、土木を長年担ってきた。業界でもいち早くDXに取り組み、建設情報可視化アプリ「Building MORE(ビルディングモア、以下ビルモア)を開発。ビルモアは同業他社にも提供され、建設業のDX推進に寄与することが期待されている。社会貢献活動に熱心なことでも知られ、毎年従業員総出で実施する「愛の献血運動」は、県内の献血車がすべて集結するほどの規模を誇る。そんな同社の学び・学び直しの様子を、代表取締役の隂山正弘さんと従業員の方々に伺った。

130万人もの人手不足が懸念される業界

建設業界においては作業員の高齢化が顕著で、2025年には技能労働者の約4割が離職し、130万人もの人手不足に陥るとされている。

隂山さん:若い人材が入ってきやすい環境をつくるとともに、ベテランの社員がその知識や技術を発揮し、次の世代に継承していける環境もつくらなければなりません。その手段として、DXが必要でした。

建設業界はDXの取り組みが遅れており、同社でも2011年頃にはICT施工をスタートさせていたが、その取り組みは不十分だったという。

隂山さん:ICT施工といっても、実際の業務は委託業者が行っていたんです。改めて建設現場の事務所を見ると、手書きの黒板に書類の山といったように、当社はアナログのままでした。これはまずいな、と思いました。

人手不足という課題を解決するためには、自社が主体となってDXやそれに伴う学び・学び直しを推進しなければならない。同社の取り組みは、そんな経営者の強い決意のもと進められた。

現在はミーティングにもITツールが欠かせないが、かつてはアナログ中心だったという

すべての従業員のITスキルを底上げする

同社の3代目社長を務める隂山正弘さん

同社のDXに伴う学び・学び直しの目標は、特定のハイスキル人材を育てるのではなく、すべての従業員のITスキルを底上げすることだった。建築現場にITツールを導入する際も、デジタルになじみのないベテランの従業員でも簡単に扱えることにこだわった。
また、従業員全体で取り組むために、DXを推進する専門の部署も立ち上げた。このように多様な人材が能力を発揮できるようにして、「若手やベテラン、男性や女性といった違いに関係なく、自社で活躍できる社員を増やす」ことが同社の人材開発の要諦だと隂山さんはいう。

ドローンの操縦からDXがはじまった

ポイント1
ドローンの操縦に要する能力・スキルを建設現場で日常的に発揮

DX推進の第一歩として、隂山さんはそれまで外注していたドローン飛行を自社で賄うことにした。ドローンの操縦ならば、従業員が興味を持って取り組めるのではないかと期待してのことだった。

隂山さん:半年後には、当社の建設現場のドローン飛行を100%自社で行うという目標を掲げました。まず10人をドローンの訓練施設に送り込み、そこで身につけた知識や技術をもとに、自社で学べる体制をつくりあげました。

年次の浅い従業員は現場の写真撮影や書類の整理といった単調な仕事が中心で、すぐに辞めてしまうこともあったそうだが、「ドローンパイロット」になれたことで従業員の目が輝きだしたという。

建築現場の写真や映像、見積書や進捗状況といった最新データをリアルタイムで共有できるビルモア

「せっかくだから、お客様にもドローンの空撮画像を見ていただきたい」という従業員の声がきっかけで、施工状況をリアルタイムで確認できるアプリ「ビルモア」の開発がはじまった。開発にあたり心がけたのは、必要以上に難しくしないことだ。

隂山さん:建築現場で誰もが使えるアプリにするには、高機能や多機能はふさわしくありません。機能を厳選して、デジタルに苦手意識がある人でも簡単に使えるアプリを目指しました。

ポイント2
経営者自らリーダーとして従業員の学び・学び直しを牽引、DX推進の専門部署が従業員の学び・学び直しを促進

隂山さん自身、ITの知識はまったくなかったというが、自ら学ぶ姿勢を見せ、また学んだ情報を共有することで、ほかの従業員を牽引した。

隂山さん:ITに詳しくなかったのが、むしろよかったのかもしれません。IT用語を一つひとつ覚えるなど、社員と一緒に学んでいったので、無理のないペースでDXを推進することができました。

ビルモアの開発について、「現場で働く社員の要望を、建設の知識がない開発担当者にわかりやすく伝えるために、『通訳をする』という意識を持って取り組みました」と語る髙津大輔さん

ビルモアの開発・運用にあたり、数名のメンバーからなる「DX推進室」も設置した。そこでは、ビルモアの開発に必要な意見を社内から吸い上げ、課題を抽出してアプリに反映させる取り組みが担われた。

隂山さん:DX推進室といっても、メンバーをスペシャリストにすることは、まったく考えていませんでした。一部の社員だけがDXに対応できるようになっても意味がないからです。

DX推進室の室長を担った髙津大輔さんは、当時を振り返る。

高津さん:社長がDXの方向性について強いメッセージを発したことが、社員の意識の向上や目指すべき姿の理解につながりました。

ポイント1、3
すべての従業員が、現場管理アプリ「ビルモア」を業務で活用、現場管理アプリの開発・運用が学び合いを促進

実際に社内でビルモアを運用する際には、簡単な研修も行ったが、直感的な操作で使用できることに加え、DX推進室のサポートもあったため、若手はもちろん、ベテランの従業員もなじむのにそう時間を要しなかったという。ポイント2実務でビルモアを活用することで、自分にITスキルが身についたことや、その便利さを実感することもできた。

高津さん:ビルモアを使えば、会社にいながら、さまざまな現場の様子をつかめます。たとえばベテランの社員が建築現場の写真を見て、気づいたことや改善点を若い社員に教えることもできます。もちろん、よいところがあれば褒められもするので、若い社員のモチベーションにもつながりました。

学び・学び直しで広がる活躍の場

以上のようにDXとそれに伴う学び・学び直し推進した結果、既存従業員の活躍の場が広がるだけではなく、退職した人材の復職も実現した。

隂山さん:出産や育児を機に退職した女性社員が、10年近いブランクを経て復職してくれました。DXを機に、建設現場に直接かかわらなくても活躍できる場が増えたからです。いまはDXにまつわるセミナーや取材の依頼に対応する業務のほか、DX推進室の副室長も務めています。

入社以来、建設現場で活躍していた宗形佳織さんも、未知の分野だったDX推進室に異動し、現在はメタバースのプロジェクトを進めているという。

宗形さん:知識がまったくない状態で異動したので勉強が大変だったのですが、これからの時代に必要とされていることなので、すごく自分のためになっていると感じます。

経営者自ら学び・学び直す姿に刺激を受けたという宗形佳織さん

また、同社ではDXや学び・学び直しによる効率化によって残業時間が低減し、一部の現場では稼働日数を抑えることもできている。それに伴い新たな学び・学び直しに取り組む余裕ができ、資格習得にチャレンジする従業員も増えたという。

隂山さん:いまは忙しくて無理だ…などといっているうちに、資格を取得しないままキャリアを重ねる社員も多かったのですが、DXと並行して資格習得の制度を整えたこともあって、社内の学び・学び直しの機運が高まったように感じます。実際、学校に通って一級建築施工管理技士の資格を取得したベテラン社員もいます。

DXや学び・学び直しで多くの成果を得た同社だが、他社にその取り組みを波及させる試みもはじめている。

隂山さん:建設現場では、私たち元請けの会社だけではなく、いくつもの協力企業がともに働いています。元請けだけがDXに取り組んでも、生産性は高まりません。自社を変えるだけではなく、業界全体を巻き込まなければいけないと気づいたんです。

その言葉の通り、社外向けのビルモアを開発し、販売も開始した。同社の取り組みが人材不足にあえぐ建設業界をどう変えていくのか、大きな期待を抱かせる事例となった。

本事例に該当する

職場における学び・学び直し促進ガイドラインのⅡ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

隂山建設株式会社
代表取締役:隂山正弘
所在地:福島県郡山市石渕町1-9
従業員数:50名(2023年9月現在)
創業:1954年
資本金:4,500万円
事業内容:建築、土木に関する総合建設請負工事
企業HP:https://www.kageken.jp/

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