厚生労働省

職場における学び・学び直し促進ガイドライン特設サイト

株式会社八天堂

2023年10月27日

「人づくり」の理念に基づく学び直しで
多彩な業務に挑戦できる風土を実現

株式会社八天堂

事業内容:「くりーむパン」をはじめとする食品の企画・製造・販売

業種
製造業
地域
広島県
社員スタッフ数
100~300人
取り組みの概要
  1. ポイント1

    • 資格取得支援制度を整えて費用を支援
  2. ポイント2

    • 人事考課において資格取得を評価
    • 社員・スタッフの成長を数字であらわす仕組みを構築
  3. ポイント3

    • 人材開発の仕組みを役職や業務上の役割ごとに体系立てて整理
    • 大学や大学院、ベンチャー留学の実施
    • 国の機関や地元自治体などの公的な施策の活用
取り組みの成果
社員・スタッフが活躍する場が広がり、
エンゲージメントのスコアも向上

「くりーむパン」でおなじみの株式会社八天堂は、広島県三原市で和菓子店として1933年に創業した。同社の3代目となる代表取締役の森光孝雅さんは、91年に焼き立てパンの店をオープンし、県内だけで13店舗を運営するまで事業を拡大した。しかし、オープン当時にはなかった、焼き立てパンの競合や、コンビニエンスストア出店など環境が変化し、一時は経営に困窮することもあったそうだ。店舗を任せられる人材を育成しないまま事業を拡大したことも、経営危機の要因だったという。その後、卸事業でV字回復した後、一品集中のどこにもない商品の開発に注力して「冷やして食べる くりーむパン」が誕生。全国的な知名度を誇る人気商品に育て上げた。今日に至る躍進には人材の力も欠かせなかったという森光さんに、同社が掲げる「人づくり」の取り組みについて伺った。

「人づくり」にもDXが必要

森光さんは「パンづくりはもともと職人気質の仕事だった」という。

森光さん:しかし職人のこだわりは属人的で、つくる人によってパンの品質が変わることになりかねません。また店舗でのサービスも属人的になりやすく、人によってレベルが異なることは珍しくないでしょう。もちろん、人によって違うことや人にしかできないことの良さもあるのですが、パンの品質やサービスにばらつきがあるのは、経営上のリスクになります。

商品を広く展開する同社にとって、その品質や接客のレベルを高く保つことは重要な課題だ。人にしかできないことの良い点は追求しつつ、社員・スタッフの能力やスキルの水準をいかに高めるかが人材開発のポイントになった。

また、会社の規模が拡大し、社員・スタッフの数が増え、業務が多様化したことに伴い、人材開発のアプローチを変化させる必要も生じた。たとえば人材開発における会社の方針などを伝達する際にも、社員・スタッフ全員に個別対応するのが難しくなったため、デジタルを活用して効率的かつ効果的に伝える方法を探った。同時にそれを実現できる社員を求めたが、引く手あまたのDX人材を新規に採用するのは難しく、自社での育成に着手することになった。

「くりーむパン」を開発し、八天堂を大きく成長させた森光孝雅さん

3つのコア・コンピタンス(中核となる能力)を設定

やわらかでしっとりとした食感の「くりーむパン」は手土産としても評判

パンづくりや接客は同社の事業において核となる業務だが、先述した通りDXを担う人材を育てることも急務だった。そこで、スペシャリスト人材のコア・コンピタンス(中核となる能力)として、「パンづくり」「接客」「DXなどを用いた改善」を設定。3つのコア・コンピタンスそれぞれに、どんな学び・学び直しが必要なのかを検討した。こういったスペシャリスト人材の育成を端緒に、さまざまな人材開発の取り組みを加速させることになった。

プロ人材の活用で人材開発の取り組みが加速

同社では会社の規模の拡大に合わせて「トップダウンによる経営」から「組織マネジメントによる経営」に移行し、人材開発においても人事部をはじめとした組織全体でその役割を担うようになった。それに伴い広島県の「中小企業等プロフェッショナル人材確保支援事業補助金」を活用し、部門長クラスの人材を新たに採用。現在、人事部で人材開発を主導する前田昌巳さんもその一人だ。同社では前田さんが入社する前から多種多様な研修が行われていたが、なかには思うように活用されていないものもあったという。

ポイント1
資格取得支援制度を整えて費用を支援

同社はこの課題を解決するために人材開発の仕組みを役職や業務上の役割ごとに体系立てて「人材育成マップ」として整理し、個々の社員・スタッフが適切なタイミングで必要な研修を受けられるようにした。
また、これまでマイスター制度といった社内資格が中心だった資格取得制度にも手を入れ、社外の資格にも広く挑戦できるように改めた。その結果、パン製造技能士といったパンづくりにかかわる資格のみならず、キャリアコンサルタントをはじめ業務の幅を広げる資格を取得する社員・スタッフもあらわれた。

人事部の部長を務める前田昌巳さん

ポイント2
人事考課において資格取得を評価、社員・スタッフの成長を数字であらわす仕組みを構築

同社では「検定受験料の補助」や「研修参加時の時間補償」といった主体的な学びに対する支援を積極的に行っているが、さらに資格取得を活性化するべく、人事考課において評価することを社内に周知したという。

人事考課においては、公平性を担保するために、社員・スタッフの成長を数字であらわす仕組みも取り入れた。

前田さん:以前は感覚的な評価が中心でしたが、取り組みの難易度と評価項目を掛け合わせて点数化しました。数字であらわすことで感覚的なばらつきを最小化するとともに、成果や能力だけではなく行動や態度にも着目して、がんばった人をきちんと評価できるようにしたんです。もちろん、部門長などによる人事ミーティングの機会も設け、点数以外の面でも調整しています。

森光さん:仕事には短期的に評価できる業務もあれば、何年も経ってから結果が出る業務もあります。そのため、結果だけではなく、業務のプロセスも評価しているんです。今後もブラッシュアップしながら、少しずつ定量化の精度を高めていきたいと考えています。人事考課には常に調整や改善が必要です。

社員・スタッフの意欲や努力に応えるために、人事考課のあり方も日々改善されている

ベンチャー留学で社員・スタッフのキャリアが一変

ポイント3
人材開発の仕組みの体系化、大学・大学院・ベンチャー留学の実施、公的な施策の活用

同社では人材開発の仕組みを役職や業務上の役割ごとに体系立てて「人材育成マップ」として整理しているほか、大学や大学院、ベンチャー留学、国の機関や地元自治体などの公的な施策の活用によって外部からも知見や技術を積極的に取り入れている。 現在、同社でDXの推進を担う杉山健太さんも、経営大学院やベンチャー留学を経験した。杉山さんは、東京のITベンチャー企業にベンチャー留学した経験について、「人生の転機になった」と語ってくれた。

業務改革室デジタル推進部でDX推進課長を務める杉山健太さん

杉山さん:新卒で入社した八天堂とは違った経験をさせていただき、いい意味で固定観念を壊されました。それまでの仕事のやり方を変えるターニングポイントになったんです。ずっと同じ環境で働いていたら、なかなか身につかない力を得ることができました。

森光さん:まずはDXの知見を得ることが目的でしたが、他社を経験することで視野が広がり、人間的に成長することも期待していました。

同社では社員・スタッフからの相談窓口を広く開放しており、業務の改善や研修の新設といった学び・学び直しに関する提案も随時受け付けている。杉山さんも外部から持ち帰った知見をもとに、DXに関する新たな研修を発案するなど、同社の学び・学び直しの取り組みはさらなる発展を見せている。

社内で広がる学び・学び直しの輪

杉山さんの発案をもとに、DXを用いた職場の業務改善が全社的に検討されることになり、リスキリングも絡めた施策の設計が現在進行しているという。

森光さん:杉山はパンづくりの担当者として入社しましたが、社内外でのさまざまな学び・学び直しによって、いまではDX推進の先頭に立っています。本当に生き生きと仕事をしてくれて、当社の掲げる『人づくり』とはこういうことだと実感しました。

森光さんが話すように、学び・学び直しをきっかけに活躍の場を大きく広げる社員・スタッフがあらわれはじめた。
また、そういった学び・学び直しによる成果やプロセスを評価する仕組みを整えたことで、資格習得に挑戦する社員・スタッフが増え、エンゲージメント(会社に対する信頼や愛着)をあらわすスコアも向上したという。 2024年度には週休3日制を導入する予定で、「日々の暮らしに余裕が生まれることで、業務のみならず人生における学び・学び直しを深めてほしい」と森光さんは笑顔を見せた。同社とそこで働く人々のさらなる挑戦に注目したい。

社員・スタッフが利用できる保育園も設置している

本事例で特に力を入れて取り組んだ職場における学び・学び直し促進
ガイドライン

Ⅱ 労使が取り組むべき事項

Company date企業データ

株式会社八天堂
代表取締役:森光孝雅
所在地:広島県三原市宮浦3-31-7
社員スタッフ数:247名(2023年6月現在) 
創業:1933年
資本金:1,000万円
事業内容:「くりーむパン」をはじめとする食品の企画・製造・販売
企業HP:https://www.hattendo.jp/

企業事例一覧へ戻る